2009年05月26日

ブエナビスタの祖−シュヴァルツゴルトとシュレンダーハーンのSライン

桜花賞に続きオークスも制して、牝馬二冠達成。ブエナビスタの強さはまさに桁違いで、レッドディザイアが気の毒で仕方ない。普通の年ならレッドディザイアも余裕で二冠だろう。しかもブエナビスタの勝ち方は無茶苦茶である。四位の騎乗は無駄なくベストを尽くしており、一方アンカツはベテランゆえに肝が据わっているということだけに意義があり、しかも今回は自ら認めている通り直線で迷ってもたついたくらいなのだから、あの状況から差し切るなんてもう出鱈目である。とにかく私たちは今、とんでもない馬を見ているのだということは間違いない。

そんなとんでもない馬の母馬の名はビワハイジ。2歳最優秀牝馬であり、その後も重賞戦線で活躍した馬で、今ここで説明し直す必要は全くないのだが、競馬場からの家路で今更ながら「そういやビワハイジってSラインだったな。」と思い出したので、ブエナビスタの牝系の祖、69年前のドイツのとんでもない牝馬シュヴァルツゴルト(Schwarzgold)とその子孫Sラインについてちょっと調べ直してみた。

「ブエナビスタの牝系の祖」とはいっても、もちろんシュヴァルツゴルト自身がこのラインの発端ではなく、ドイツのSラインという通称に従うなら、更に2代遡ったシュヴァルツェクッテ(Schwarze Kutte)がその始祖となる。シュヴァルツェクッテは1920年英国産で父は英セントレジャー馬ブラックジェスター(Black Jester)。1歳のときに現存するドイツ最古の私営牧場シュレンダーハーン牧場(ハルツブルク牧場とかグラディッツ牧場はもっと古いが元は王立等)に買われドイツの地にやってくる。2~3歳時に6勝を挙げ、競走馬としてそこそこ満足できる成績を残している。しかしこの馬は母馬としてこそ真価を発揮し、特に1932年産駒、戦前ドイツ最強とされるオレアンダー(Oleander)を父とするシュトルムフォーゲル(Strumvogel)は、ヘンケル・レネン(独2000ギニー)、ウニオン・レネン、独ダービーを連覇、続くベルリン大賞でパリ大賞馬アドミラルドレイク(Admiral Drake)を倒して、父に続きドイツ馬がフランス馬に比肩できるレベルであることを証明した。またシュトルムフォーゲルの1歳姉シュヴァルツリーゼル(Schwarzliesel)も優秀で、キッサソニー・レネン(独1000ギニー)を制し、ディアナ賞(独オークス)3着の成績を残す。即ちシュレンダーハーン牧場のSラインは、その最初から大成功していたのである。

1937年、シュヴァルツリーゼル初仔としてシュヴァルツゴルトは誕生した(父アルヒミスト(Alchimist)もこの時代に名を残す名馬であるが、この馬については随分昔に前ブログで書いたのでそちらをご参照いただければ)。2~3歳にかけ11戦8勝。意外にも3回も負けているのだが、1つはデビュー戦での首差2着。その次から4戦連続逃げ切りの圧勝劇を演じるが、2歳最終戦のラティボア・レネンでヴァルトフリート牧場のフィニートア(Finitor)に半馬身差され、彼女の敗戦の中で唯一説明(または言い訳)が見つからないレースとなった。最後の敗戦は3歳明け初戦のヘンケル・レネン。調教師ゲオルク・アルヌール(Georg Arnull)曰く、シュヴァルツゴルトは最も調教し易く、最も調教が難しい馬だった。調教では基本的に単騎で、ダートでは抑えが利くのだが、芝調教では自分の意思でテンポを作ってしまい、なかなか調整ができなかったということである。ヘンケル前も芝での仕上げ調教ができなかったということで、どんな名馬でも仕上がり途上で明け初戦を勝つのは難しいという競馬の常識を、この馬自身が裏付けたのだと一応解釈されているようだ。

だが一叩きされたシュヴァルツゴルトは、誰もが驚き、あるいは最早呆れて笑うしかないほどの強さで快進撃を開始した。まずはヘンケルで後塵を拝したネーヴァ(Newa)をキッサソニー・レネンで6馬身差に叩き落し、続くディアナ賞は着差を測ることすら許さない大差で圧勝。そして迎えたダービー。牡馬前哨戦であるウニオンもシュレンダーハーンのアドアストラ(Ad Astra)が制しており、上がり馬サムライ(Samurai)と合わせた3頭出しで、どう転んでも優勝カップはオーナー、オッペンハイム(Waldemar von Oppenheim)の手に渡ることになっていた。そして予想違いはアドアストラが4着になったことくらいで、サムライは3着エッレリヒ(Ellerich)に5馬身差の2着を確保する。而してシュヴァルツゴルトは、13頭立ての外11頭目からスタートし、抑え気味ながらも内へと切り込みながら先頭に立つ。鞍上シュトライト(G.Streit)は持ったままであったにも拘らず、スタンド前を通過し1コーナーに差し掛かったときには後続との差が開き始め、向正面で6馬身、10馬身、そして15馬身と差が見る見る開き、最終コーナーでは既に誰もがシュヴァルツゴルトの勝利を確信して祝福の歓声をあげた。シュトライトは早々と手綱を降ろし、このとんでもない牝馬の背にただ揺られるがままに揺られ、悠々とゴール。その瞬間2着のサムライは10馬身後ろで、3着以下相手に圧勝劇を演じていたのである。サムライはこの後セントレジャーに勝ち、古馬になっても重賞をいくつも勝っており、他の年だったら十分世代トップになれた馬だ。そこからもシュヴァルツゴルトのとんでもない強さが分かる。

ダービー後、シュヴァルツゴルトはオレアンダー・レネンを再び「大差」で圧勝し、次の目標をミュンヘンの国際レース、ブラウネス・バントに定める。1934年、ミュンヘンの競馬狂ナチ官僚クリスティアン・ヴェーバー(Christian Weber)によって創設された高額レースだ。しかしヴェーバーは何故かシュヴァルツゴルトの出走を認めなかった。それでも陣営がシュヴァルツゴルトと共に果敢にミュンヘンへ乗り込むと、遂にナチ親衛隊が現れ、シュヴァルツゴルトの馬房の前を封鎖したのである。これで万事休す。オッペンハイムはアルヌール師、牧場長シュポネック(Graf Sponeck)に「暴力の前には屈せざるをえない。」と述べ、出走を断念したのである。親衛隊は、勝者がゴールを駆け抜けたと同時に、シュヴァルツゴルトを馬房から解放したという。この逸話についてはH.ジーメン(Harald Siemen)とH.ルドルフィ(Harald Rudolfi)の著書(下記参考文献ご参照)で触れられているのだが、ヴェーバーが出走を妨害した理由は書かれていない。この時レースを勝ったのは伊ダービー馬で、後にリボー(Ribot)の祖父となるベリーニ(Bellini)である。1940年夏は既に第二次大戦に突入しており、英仏とのレース交流は断たれている。恐らく国際競走として同盟国イタリアの顔を立てるために、シュヴァルツゴルトの出走を阻んだのであろう。あるいはオッペンハイム家がユダヤ系(19世紀に既にカトリックプロテスタントへ改宗している)であることも関係しているかもしれない。この3年後、シュレンダーハーン牧場はナチ親衛隊によって接収され、オッペンハイム家は亡命している最終的に屋根裏で身を隠す生活となる。

この鬱憤を晴らすべく、ホッペガルテンの高額重賞、帝都大賞(現ドイツ賞)に臨む。そしてこれが現役最後のレースとなる。このレースの模様については、私が文章で語るより、以下のYouTubeを見ていただきたい。貴重な映像でビデオにもなっており(最近DVDにもなったようだ)私も持っているのだが、誰かがちゃっかりアップしてくれたようだ。

観客が傘を広げる雨天の中、見ての通りの圧勝劇である。ドイツではレース毎に「レース判定」(Richterspruch)というのをするのだが(「ドイツ競馬用語」の"Richterspruch"ご参照)、正規のカテゴリーにない「控える」(Verhalten)という判定が出された。直線では最早レースを終え、すっかり控えてしまったからだ。

既述のようにこの時ドイツ競馬は英仏とのレース交流を断たれていた。それゆえ凱旋門賞への挑戦は最早叶わず、「パリでも負けはしなかっただろう。」というアルヌール師の無念を残しながらも、シュヴァルツゴルトはとてつもない足跡をドイツ競馬史に記してターフを去った。

繁殖に入ったシュヴァルツゴルトはしかし、9年の牧場生活で僅か2頭の牝馬を残し、1951年感染病によって早世した。2頭のうち姉のシュヴァルツェパーレ(Schwarze Parle)は牧場から放出されたが、大物こそいないものの、やはりシュヴァルツゴルトの血が重宝がられたのか、地道に広く牝系を残しているようだ。そして妹のシュヴァルツブラウロート(Schwarzblaurot)が現代にまで太く残るシュレンダーハーンのSラインを構築する。シュヴァルツブラウロート自身は現役時代これといった成績を残しておらず、直仔もオープンクラスで活躍する馬は多く出したが、トップレベルというほどではなかった。しかし牝系の直仔たちが素晴らしい母馬となったのである。

1955年産サブリーナ(Sabrina)は、自身も独1000ギニーを2着したまずまず優秀な馬で、産駒には(見落としがあるかもしれないが)ずば抜けた馬はいないものの、血脈としては現在に至るまでオープン級の馬を輩出し、最近ではゾンマーターク(Sommertag)が昨年のバーデン・ヴュルテンベルク・トロフィー(Gr.III)を制しており、シュレンダーハーン牧場に残るSラインの重要な1本に数えられている。

1952年産シェヘーレツァーデ(Scheherezade)も、1941年以来祖母の名を冠した独1000ギニー、シュヴァルツゴルト・レネンを3着している。こちらの血統は更に優秀で、特にシェーンブルン(Schönbrunn)は1000ギニー、ディアナ賞の牝馬二冠を達成し、フランスへも度々遠征してドーヴィル大賞を勝っている。そしてその2代後には、1984年の凱旋門賞を勝ったサガス(Sagace)に至るのである。また先日サンタラリ賞(仏Gr.I)を6馬身差で圧勝したStecelitaもこのラインに属し、衰える気配はない。

そしてブエナビスタの直系の祖となり、マンハッタンカフェなどを通じても日本と縁の深いのが、1954年産ズライカ(Suleika)である。ブエナビスタ、マンハッタンカフェに通じる直仔サンタルチアーナ(Santa Luciana)は、見落としてない限り目立った産駒はなく、日本に辿り着いて開花した感がある。だがズライカの直仔で最も目に止まるのは、ディアナ賞馬ザベーラ(Sabera)であり、この馬から1976年独ダービー馬スタイヴァザント(Stuyvesant)が産まれる。スタイヴァザントは活躍する産駒こそ出せなかったものの、日本でも種牡馬生活を送った数少ないドイツ馬だ(っていうか、他にいたっけ?)。そして名前が日本のサヨナラ(Sayonara)から、1985年英国ダービー馬スリップアンカー(Slip Anchor)が誕生するのである。

ドイツ馬産はよく閉鎖的と言われるが、牧場が独自の血統を守りながら、決して飽和しないように外部の血を程度に交配させ、世界へと染み渡るように広げていく手法は、長期的視野に立った経営としては当然のスタンスなのではないだろうか。確かに大種牡馬を抱えた華やかな影響力に比べ明らかに地味ではあるが、こうしてSライン一つを眺望してみても、閉鎖的と呼ぶには明らかに異なる広がりと奥深さがある。ドイツはシュヴァルツゴルトというとんでもない馬を生み出し、戦中、戦後の混乱の中にあってもその血を絶やさず守り続け、こうして日本の競馬シーンにまでもしっかり影響を与えているのだ。今私たちが目の当たりにしているとんでもない馬ブエナビスタは、69年前のとんでもない馬シュヴァルツゴルトの血を熟すように受け継いだ結果現れたのだと思うのも、決して間違いではないだろう。

【参考文献】

  • Deutsche Flach- und Hürdernis- Renn-Chronik, Jahres-Ausgabe 1939
  • "Schlenderhan, Eine züchterische Bestandsaufnahme am Ende des Jubiläumsjahres" in: Album des Deutschen Rennsports 1969
  • Beckmann, Martin: "Stuyvesant, Der dritte Derby-Sieger der Familie der Schwarze Kutte - der 16. für Schlenderhan" in: Vollblut Zucht und Rennen, Nr.68 (1976)
  • Hagemann, Eberhard: Aufbau und Leistung der Schlenderhaner Vollblutzucht (1939)
  • Rudolfi, Harald: Von Abendfrieden zu Baarim (1963)
  • Eversfield, Martin E.: Die Klassischen Sieger 1946-1975, Vollblutzucht und Rennen in drei Jahrzehnten (1975)
  • Siemen, Harald: Faszination Galopp, 150 Jahre Hamburger Renn-Club e.V. 1852-2002 (2002)

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2009年05月20日

Overdose、アスコットプラン白紙に

レース復帰プランは結構楽観的な割りに報じられる故障の具合はあまり芳しくないように見えていたので、内心「ホントに大丈夫か?」という思いはあった。調教も再開してない状態だったのだから、アスコットプラン撤回はある意味当然だろう。でも故障は想像以上に深刻のようだ。

左前脚蹄の炎症は快復傾向にあるとのことだが、この間庇っていた右脚に負荷がかかって、こちらにも不具合が発症してしまったらしい。馬が脚を怪我した場合最も起こしやすい併発症だ。GaloppOnline.deの記事では、馬主Mikoczyは楽観的な姿勢に努めている。しかし具体的な復帰のヴィジョンは見えていない。いずれにせよここは無理せず治療に専念し、万全の状態でターフに戻ってきてほしい。

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2009年05月19日

古豪たち復活の春

ヴィクトリアマイル、ウォッカは強かった。それ以上の言葉がないレース。しかし、だったらあのドバイの成績はなんだったのか?これだけ桁外れの強さを持ちながら内弁慶で、しかも東京スペシャリストって、なんか物足りない。好きな馬だけに、どこか歯がゆい。まあそれでも安田は素直に応援する。今回は病み上がりで自重したが、安田は出来る限り府中まで行きたい。今週末のブエナビスタも外せない。ダービーも含め3連闘はちときついが。

ベナツェット・レネン(Gr.III)

ドイツのスプリント重賞初戦は、昨年頭角を現し始めた遅咲きの6歳馬Contatが、大穴牝馬Etoile Nocturneとの接戦を鼻差制し、初重賞制覇。ゴールの瞬間はEtoile Nocturneが抜けていたように見えたため、こちらが誘導馬に従われ勝者として戻ってきて、鞍上のモンジールもファンサービス一杯にスタンドの声援に応えていたらしい。しかし写真判定でContatに軍配が上がり、チャップマンに実況席から「ウィリアム、ノー・チャンス」と宣告されて、モンジールの目は点になっていたそうな。

人気のSmooth Operatorはスタートゲート内で立ち上がり、一瞬しりもちをついていた時点で「こりゃ危ないな」と感じたが、案の定やや出遅れ、全体的に後手後手のレースになってしまった。それでも4着にまで追い込んできていたので、精神面を中心に上手く立て直せば、次はガラッと変わる可能性はある。実力の判断は次まで保留。

BHF銀行マイレ(バーデナー・マイレ)(Gr.III)

こちらも若い人気馬が飛ぶ波乱。古馬マイル〜中距離の新たな主役を担うべき期待を込め、1.6倍のダントツ人気に支持されたLiang Kayが、これまたどこかちぐはぐはレースで3着に敗れる。外目後方2番手で3コーナーを回った直後、前のWiesenpfadに詰まるような形で一瞬上体を上げ、そのまま最後方に下がってしまった辺りで「こりゃまずいな」と感じたが、案の定外外を回らされて直線での仕掛けが明らかに遅れ、追い込んではきたものの3着止まり。モンジールは追わせると上手いのだが、馬群捌きがむかしから下手。腕は一流でも協調性に難あるヘリアーが出て行って、昔の名前じゃあまり優遇してくれない故郷フランスで燻ってたモンジールをドイツへ呼び戻したはいいけど、オストマン師の騎手に対する悩みはまだまだ解消できなさそう。ただ馬自身もどこか本調子じゃなかったというか、嵌ったときのピリッとした切れ味が感じられなかった。父Dai Jinほどのふてぶてしい強さはなさそうだ。

さて前日同様、ゴール前で写真判定にもつれ込む接戦を演じたのは、私が一昨年まで目の前で見ていた馬たちだった。中団から馬場の外目を抜けたAspectus、後方から内を突き前へ躍り出るKönig Turf。逃げるEarl of Fireを両脇から同時に抜き去り、かつて鎬を削ったライバル同士、栗毛と黒鹿毛が馬体を合わせ、古豪の意地がぶつかり合う。鳥肌ものだ。そしてAspectusが僅かに短頭差König Turfを抑え、2007年7月大ヘッセン・マイレ(Gr.III)以来の久々の重賞制覇を果たした。

Aspectusは2歳王者、3歳時にウニオンを勝ってダービー候補に支持されたが、距離の壁にぶつかり、以後マイルから中距離に転向。しかし上述の大ヘッセン・マイレを除いてGr.II、Gr.IIIレベルで煮え切らないレースが続き、昨年はフランスの大厩舎ファーブル師の下へ送られた。しかしそこでも結果が出せず、今年になって再びドイツに戻ってくる。尤もレットゲン牧場専任のブルーメ師の下ではなく、新調教師ムンドリーが与ることになった。そして4月のクレーフェルトの平場別定戦で慎重に復帰し勝利、ここに臨んできたのである。今回のレースを見る限り、馬に覇気は十分ある。6歳という年齢でどこまで力をつけなおせるか分からないが、かつての輝きをもう一度見てみたいのも正直な気持ちだ。同期Prince Floriは同日ローマの共和国大統領賞(伊Gr.I)で差のない5着に踏ん張り、衰えを感じさせながらも地道に頑張っている。ウニオンで降したLauroはヴェーラー厩舎に所属しながらもアメリカを主戦場として昨年はGr.II勝利。今年も16日にピムリコのディクシーS(米Gr.II)でシーズンスタートし、2馬身差の4着。ゴドルフィンに移籍したSchiaparelliの動向は分からないが、この世代は個性派揃いで層が厚い。Aspectusもまだまだ同期の頑張りに負けられない。

しかしそれにも増して胸を打ったのは2着のKönig Turfだ。昨年3月サンクルーのエドモンブラン賞(Gr.III)を逃げ勝ち、新境地を開くかと思われた直後、調教中に骨折し、一旦引退を余儀なくされた。それ以前にも骨折で長期休養し、ボルトを骨に埋めたまま復帰して重賞戦線を戦った苦労馬である。命はとり止め、フランスでの種牡馬入りの話も決まっていたのだが、引き取り先の牧場から馬主へ買い取り金が振り込まれてこないということで取引不成立となり、今年再び現役復帰となったのだ。管理していたシュプレンゲル師は愛馬が手元に戻ってきたことをことのほか喜び、ロンシャンの平場戦で一叩きさせて(3着)、このレースに送り込んだ。そしてこの熱さ溢れる激走である。ターフに現れたシュプレンゲル師は、かつてKönig Turfの主戦を務めていたムンドリー師の勝利を讃えると同時に、戻ってきた愛馬を涙を流して迎えたという。König Turfの次走は、2年前に制したハンブルガー・マイレ(Gr.III)の予定だ。

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2009年05月13日

Overdose、テンプルS回避決定、仏グロシェーヌ賞からアスコット

このブログではOverdoseを追いかけます(気力が続く限り…)

左前脚蹄の治癒が長引き、予定していた23日ヘイドックのテンプルS(英Gr.II)の回避が決定された。代わりに31日シャンティイのグロシェーヌ賞(仏Gr.II)をステップに、アスコットのキングス・スタンドS(英Gr.I、5ハロン)とゴールデン・ジュベリー(英Gr.I、6ハロン)の両方に挑戦すると馬主のMikoczyが表明。現在はフランスからトップクラスの装蹄師を招聘し、再起に力を尽くしているとのこと。化膿しているところなどもあったようだ。

話は逸れるが、Overdoseの馬主Mikoczyが、その馬主権を3分割し、他2人に売却してシンジケート化したというのが話題になっている。昨年既に引き合いはあったそうだが、「私は儲けるために馬を買ったのではない。夢は売らない。」と突っぱねていたらしい。しかし先月突然スロバキアの金融企業家及び他1人と共同馬主となったため、奇麗事からちょっと離れた話になってきた。GaloppOnline.deの記事によると、1口150万ユーロで、Mikoczy自身が保持する権利と合わせて450万ユーロ(約6億円)の価値がOverdoseに発生する形となっている。もっともこれが噂の域を出ないので、なんともすっきりしないところだ。これだけ話題をかき集める馬になれば、あれこれ金の話が飛び交うのは仕方ないが、ファンとしてはもっと堂々とスマートにやってもらいたいものだ。一昨年Schiaparelliがゴドルフィンに500万ユーロで買われたときは、あの馬がそれだけの価値を認めてもらえ、更に大きな舞台に出て行かれると、ドイツの競馬ファンはポジティヴに捉えていたのだから。

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2009年05月12日

インフルエンザに罹った

豚じゃないけど。

詳しくは知らないのだけど、今騒がれている豚のはA型で、私のはB型なんだそうで。なんにしても生まれて初めてインフルエンというものに罹ったので、最初は当然風邪かと思っていた。先週後半から週末にかけて寒暖の変化が激しかったし、日曜日辺りはそれでなんとなくだるさを感じてたので、ブログ書いてパブロン飲んでネットでドイツ競馬見てから寝たんだけど、昨日仕事に行ってから鼻水が止まらなくて、「こりゃ間違いなく風邪だ」と判断して半休とって帰ってきた。そしてパブロンの効果がまるで感じられていなかったので、近所のマツキヨで「カツンと効く風邪薬ください」と言って勧められたルルアタックIBを飲んで午後から布団にもぐりこんだわけだ。しかし6時くらいに起きたとき益々だるくなってて、体温測ったら78.8度。うどん食べてルルアタック飲んで、夜11時くらいにまた体温測ったら今度は38.2度。今朝起きてもまだ38度あったので、大人しく近所の病院に行き、結局インフルエンザと診断されてしまったわけです。市販の風邪薬が全然効かないわけだよ。

インフルエンザの検査って、採血と同時に、長い麺棒を鼻のめちゃくちゃ奥まで突っ込んでそこから鼻水採取するのね。あれはなかなかしんどい。取り合えずタミフルと解熱剤もらって帰ってきた。1日中寝てたせいで病気でだるいのか寝すぎでだるいのかよく分からん。こういうときにこそ本読んだり外付けハードに溜まっている動画類でも見ようかと思ったのだけど、集中力でないしすぐに疲れるしでダメだね。今、取り合えず熱が下がってきたのでブログ書いてるけど、ウイルスをばらまくわけにはいかないし、医者は明日も自重してろというので、明日こそ充実した引き籠り生活を送ろうかと。

そうそう、風邪と明らかに違う症状として、喉に全然影響が出ていない。だから咳も基本的にないし(だるさからむせたときにちょっと)、熱が出ても喉が痛くないときはインフルエンザを疑ってみていいのかも。

メールミュルヘンス・レネン(Gr.II)

人気のIrianが逃げる英国馬Zafisioを差し切って勝利。Zafisioの逃げはややかかり気味とも思えるハイペースで、Irianは後方で控える競馬。直線に向き、先行勢がZafisioのペースから振り落とされると、外を突いてIrianが伸び、粘るZafisioをしっかり抜き去った、なかなか強いレースだった。Zafisioは直線でかなりふらついており、臨戦態勢としてまだ仕上がっていなかった様子が窺え、それでいてあそこまで粘るのだから、Gr.Iホースは伊達じゃなかった。一叩きした後だったら、Irianもここまで楽には勝てなかったかもしれない。3着には後方から追い込んだGlobus。この馬なりに立て直してきたようだが、逆にこの辺が今の限界なのかなとも思わされる内容。次はフランスのGr.IIIを狙うとのことで、多分そのくらいのレベルが当面妥当と思われる。

Irianは距離を伸ばしてジョケクルブ賞(仏Gr.I、仏ダービー)を目指す。ジョケクルブが2100mに距離短縮してから、メールミュルヘンスをステップにここへ向かった馬に、Aspectusがいる。Aspectusは13着で結果を残せなかったが、その後2200mのウニオン・レネンを制しており、距離の融通が利かなかったわけではない。2400mが長すぎても、中距離がベストというタイプなら今後もこのルートを選ぶ馬は出てくるだろう。

シュヴァルツゴルト・レネン(Gr.III)

Addictedが人気のNovitaを差し切り、追い込んできたLukreciaとの叩き合いを制して勝利。1000ギニー有力候補へ躍り出た。2番手から直線と同時に先頭へ抜け出したNovitaがそのまま押し切るかと思われたが、残り150mくらいで伸び脚が鈍り、そのNovitaを終始ピタリとマークしていたAddictedが抜き去る。そこへ後方からLukreciaが矢のように追い込んでたが、Addictedは馬体が並んだところでもう一粘りし、短首差凌ぎ切った。今年騎手から調教師に転じたムンドリーは、早くも重賞初勝利である。

上位馬は皆1000ギニーへ向かうことになる。Novitaは現状における限界が見え始めたようで、本番では人気を落とすだろう。AddictedとLukreciaにしても、抜けた強さという意味では物足りない。1000ギニーでは、デュッセルドルフ牝馬賞(L)で仕上がり途上の感を残しながらもしっかりNovitaを押さえ込んだNorderneyが恐らく1番人気になる。2003年独ダービー馬である父Dai Jin(GAG101kg)の産駒は、2005~08年で12、13、16、9頭しかいないのだが、初年度産駒Liang Kayが重賞3勝し、このNorderneyが1000ギニー有力候補となっているのだから、種牡馬としてもっと人気が出てもよさそうなものだ。

今週末から春のバーデン開催。最初の週末の注目は、スプリント重賞のベナツェット・レネン(Gr.III)。2歳時にフランスのGr.III、Gr.IIを勝ったSmooth Operatorが、春初戦からいきなり古馬に挑戦する。古馬大将のAbbadjinnが今年初戦を不完全にスタート(準重賞4着)しているので、全体としてメンバーのレベルは高くない。だがこの時期に早々と古馬を叩き潰すようなら、今後かなりの期待が持てる。Overdoseのライバルにでもなれば、スプリント路線もグッと面白くなる。

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2009年05月10日

3歳戦線とギニー展望

今日ケルンで独2000ギニーのメールミュルヘンス・レネン(Gr.II)と1000ギニートライアル、流浪のレース名シュヴァルツゴルト・レネン(Gr.III)が行われる。ギリギリになってしまったが、ギニー展望と合わせ、少し現在の3歳有力馬を整理してみたい。08年振り返りで2歳馬編を結局やらず仕舞いだったし、その辺もここで関連付けながら話を進める。

まずは牡馬。ギニー路線と平行し、直接ダービールートへ向かう馬は、先週のバンクハウス・メッツラー春季賞(Gr.III)に出走、4番人気のGlad Pantherが人気のSaphirとの叩き合いを制して勝利。この馬は2歳デビュー戦で勝利、続く準重賞コロニムス・レネンで3着となっている(このレースを制したSmooth Operatorはその後フランスで重賞2勝を挙げ、今期のスプリント路線に期待が持たれている)。今年はドクター・ブッシュ・メモリアル2着のDaring Tigerがデビュー勝ちしたカテゴリーDレースでスタートし、ダントツの1番人気を裏切り3着。因みに今年から未勝利戦用のレースがカテゴリーDレースとされ、過去にカテゴリーDを勝った馬でも3kg負担増で出走可能となった。1勝馬の出られるレースが極端に少ないのが予てから問題にはなっていたため、こういう解決策になったようだ。Glad Pantherはこの敗戦故に人気を落としていたわけだが、重賞を勝ったことで一応の復権はできた格好だ。付いたGAGは91.5kg。昨年のKamsinが90kgなのだから、重賞格の馬がいなかったレースとしてはまずまずの評価といえる。ただGlad Pantherの父は日本でもタイキフォーチュン等を輩出したシアトルダンサーで、母系も短距離傾向だから今後距離延長がどこまでいけるかはまだ不透明。2着のSaphirは今年初戦のカテゴリーD戦で他馬を引き千切って勝利したためここで人気になっていた。2着とはいえ重賞初戦でこの内容ならまずまずで、父がBlack Sam Bellamyという点でも距離が伸びて更に活きてくるだろう。ダービーの有力候補の1頭と考えておいてよさそうだ。

その他ダービーへの抜けた有力候補はまだ不在で、デビュー、又は明け初戦のカテゴリーD戦で強い勝ち方をした良血1勝馬が数頭注目を浴びている状況だ。一応ニュースになっている名前を挙げておくと、Quamun(デビュー4馬身、母1000ギニー馬Quebrada)、Oriental Lion(デビュー1½差、兄Oriental Tiger)、Panyu(デビュー6馬身差、兄Platini、Paolini)、Wiener Walzer(明け初戦7馬身差、母Walzerkoenigin、兄Walzertraum)あたりを今後要チェック。ちょっと動向が分からない有力馬として上述のDaring Tigerが気になる。素質の高さはドクターブッシュで証明済みだが、2000ギニーにもダービーにも登録なく、一応21日の準重賞シュパールカッセ・ドルトムント大賞に登録してあるものの、その後の路線は不明。血統的にはかなりダービー向きだと思うのだが、いっそもっと長距離でセントレジャー狙いなのか。

さて本日のメールミュルヘンス・レネン。人気を集めるのはドクター・ブッシュ・メモリアルを圧勝したIrianで間違いない。この馬はダービーへの登録はなく、マイルから2000mをメインに進むことになる。ここが試金石だ。国内馬では2歳チャンピオンGlobusが前回敗戦からどれだけ立て直しているかが鍵。ヴィンターファヴォリート賞(Gr.III)を10馬身差で圧勝した馬だけに、叩かれ2戦目でガラっと変わる可能性がないわけではない。一方ヴィンターファヴォリート賞2着の良血Next Visionが明け初戦でここに臨んできたが、ヒルシュベルガー陣営のここでの期待は明らかにIrianにあり、ここはダービーへ向けた叩き1戦目として見ておくのが妥当。

Irianの強敵となるのはむしろ2頭の英国馬。メールミュルヘンスは過去にも度々英国馬に奪われているが、今年の2頭は例年以上にレベルが高い。格の上ではZafisioが圧倒的だ。2歳時にクリテリウム・インターナシオナル(仏Gr.I)を勝っているGr.Iホースである。ただ今年は英2000ギニーには登録ありながらそれに間に合わず、明け初戦にここを選んできた。クリテリウム・インターナシオナルも大穴での勝利で、その後クリテリウム・ド・サンクルー(仏Gr.I)では5着に敗退していたし、どこまで本物かは分からない。いくらGr.Iホースとはいえ、ドイツ勢としてはこういう馬に簡単にはやられたくないところだろう。

もう1頭のSri Putraは2歳時にGr.IIIを勝利。Gr.Iでは及ばなかったが、明け初戦のベイスウィック・タイアーズ・グリーンハムS(英Gr.III)で4着し、ここに臨んできた。本国ギニーでは厳しいからドイツを草刈場にしようという、過去の英国遠征馬の典型的パターン。一叩きした上積みはあり、怖いのはむしろこっちだろう。

それでは牝馬戦線。

ディアナ賞については、如何せん8月2日施行だから、これからデビューする馬にもまだチャンスはあり、今あれこれ挙げても意味がない。取り合えず現段階で挙げておくべき2頭について簡単に触れる。

まず2歳女王のSworn Pro。デビュー2戦目に未勝利脱出し、大穴でヴィンターケーニギン賞(Gr.III)を制した。母系はヴィッテキンズホフ牧場の基幹Sラインに属すが、母の産駒が地味で、且つ父Protektorというところが人気を落としていた原因だろう。ただProtektor産駒は時々一発やらかす馬が出るので、この馬もそういう意外性の1頭といえる。1000ギニーはスルーし、今年からホッペガルテンに移った(これはいいことだ)ディアナ・トライアル(Gr.II)から始動予定。

既に今期出走しギニーを回避してディアナへ向かう組は、5月3日ヘンケル・トライアル(L)を最初のステップにしている。ここを勝ったのがフェアホフ牧場のGalana。姉Goathemalaは強豪集う前年の3歳牝馬路線で地味に善戦し、シーズン最後の牝馬限定Gr.IIIを勝って重賞ウィナーの仲間入りを果たしている。Galanaはフランス、イタリアのオークスにも登録があり、次走はどちらかに挑戦することになるだろう。

残るディアナ候補は1000ギニーを待ってからということになる。

而してその1000ギニートライアルとなるシュヴァルツゴルト・レネン(Gr.III)。人気は前走ここへのステップになる準重賞デュッセルドルフ牝馬賞2着のNovitaと、昨年9月ケルンでの2歳準重賞を勝ち、ここを明け初戦として臨んできたJambalayaが人気を分け合い、ヴィンターケーニギン4着、ヘルツォーク・フォン・ラティボア・レネン(Gr.III)3着のAnjellaがそれに続いている。Novitaは2歳時に準重賞ユニオーレン賞で牡馬Next Visionを降しており、既に呼び声高い馬だ。ディアナへの登録は無く、1000ギニーを当面の目標に、マイル路線を進むことになるだろう。

その他、ここに名のない1000ギニー候補は、上述のデュッセルドルフ牝馬賞でNovitaを1¾差に降したNorderney。2歳デビュー戦を勝利し、明け初戦のこのレースを制して2戦2勝。まだ底を見せていない。1000ギニーでは今日のレースの勝ち馬とこのNorderneyが人気を分け合うことになるだろう。

ということで、間もなく発走にも拘らずブログアップ!ま、レースが終わった後に読んでください(^^;)

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2009年05月08日

Overdose、テンプルS自重か?

09tennosho.jpgGWに伊勢、吉野を回ってから京都に入り、天皇賞を観戦、撮影してきた。マイネルキッツは完全にノーマークで馬券はどうしようもなかったが、写真はそれなりにいいのが撮れたので一応満足。しかし結構いい感じの1枚が、ご覧の通り台無しとなった。まず何より写真撮りとして邪魔されたことに腹が立つ。だが、以前に武も本気で怒っていたように、こういうのが馬の視界に入ると驚いて危険な動きをすることがある。騎手、そして馬の命を危険に晒すことになるのだ。そもそもこんなものをこの瞬間に投げてるってことは、ゴールの場面をまともに見てないってことだよね。競馬場では人それぞれの楽しみ方があっていいと思うが、他の観戦者の邪魔をし、時に騎手や馬を危険に晒してしまう行為は、絶対に許されるべきものではない。ホント、やめて欲しい。

先日順調なシーズンスタートを切ったハンガリーのヒーローOverdoseが、次走予定していた23日のテンプルS(英Gr.II)を回避する可能性が出てきた。この間のハンガリー大賞で実はレース中に落鉄し、左前の蹄を傷めていたらしいのだ。レース直後のGaloppOnline.deによるインタビューでもリバルスキー師は落鉄について少し触れてはいたが、そこでは特に問題はないと言っていた。しかし翌日にはびっこを引くような状態になっていたらしい。まだ最終決断には至っていないようだが、期待の大きな馬だけに無理使いはしないであろう。ただ、アスコットのキングス・スタンドS(英Gr.I、5ハロン)かゴールデン・ジュベリー(英Gr.I、6ハロン)へ直接臨むことにもなり、結構難しい決断ではあるかもしれない。如何せんこれまで無敗だから、ここは落としてもジュライカップ(英Gr.I)を本線に狙えば、といった融通が利かないところが陣営としてはきついだろう。

先週末取り上げたLöwenherzは首差ながらもしっかり勝って、まずは順調な滑り出しを切った。慎重に第2のQuijanoを目指す。

ジルベネス・バント(L)に出走したValdinoは何故か直線で失速し敗退。バーデンのベティ・バークレイ(Gr.III)までに立て直せるか、今年の活躍はそれ次第か。ミュゲ賞(仏Gr.II)に出走したPrecious Boyは、後方から最後に良く伸びて、明け初戦としてはまずまずの3着。

3歳戦については、明後日のメールミュルヘンス・レネン(Gr.II)に絡めて明日か明後日書けたら書く。


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2009年05月01日

先週、先々週のレースと今週の注目、しかも敢えて5月1日ブレーメン平場1R

サラッと過去2週。

4月19日 ドクター・ブッシュ・メモリアル(Gr.III)

2歳チャンピオンGlobusが一応1番人気に支持されるが、春の一叩き目で未勝利を抜けた馬たちも人気を分け合う。その混戦ムードを吹き飛ばし快勝したのは、シュレンダーハーン牧場のIrian。3月15日のデビュー戦を8馬身差で圧勝し、その勢いで一気に重賞制覇。2番手から直線で反応良く抜け出す安定した走りで、まだまだ強くなりそうなポテンシャルを感じる。父がTertullianで距離延長は不向きとみて、ダービーの登録はない。一応メール・ミュルヘンス(Gr.II・独2000ギニー)に登録はあるが、ミュンヘンのバヴァリアン・クラシック(Gr.III)へ向かい2000m路線にシフトするプランもあるようだ。Daring Tigerは最後方から追い込んでの2着で、この馬も今後伸びそうな気配。Globusは直線で伸びかけながら止まってしまったので、まだ仕上がりきってなかった様子。メール・ミュルヘンスまでに本調子へ持っていかれるかが鍵。

4月26日 ゲーリンク賞(Gr.II)

Kamsinが直線でやや苦しみながらも、最後には地力の差で勝利。休み明け初戦としては十分だろう。むしろ一旦Kamsinを交わして大穴を開けると思われたDwilanoを褒めてあげたい。この馬は小厩舎レマート師(といってもかつての名騎手。日本でいうなら郷原あたりか)の管理馬であるため、いつも不当に軽視されているところがあるが、前走も明け初戦でよく走っており、この2着も決してフロックではない。本来2000mがベストで、今の調子を維持しているうちに国外のGr.IIIあたりを狙うと面白いかも。グランプリ・アウフガロップを勝ってきたOstlandは直線でさっぱり伸びず最下位。Kamsinに対し、シールゲンはこの馬の調整をまともにやってたのか疑問を感じるよ。

4月26日 エルンスト・マイレ(L)

Liang Kayが持ったままで余裕勝ち。ここでは格が違った。次走はバーデナー・マイレ(Gr.III)か2200mのバーデン企業大賞(Gr.II)のどちらかを狙う。

4月26日 ガネー賞(仏Gr.I)

Adlerflugがゲーリンク賞ではなくこちらに出走。直線内で前が詰まって追い出しが遅れたものの、よく追い込んで¾馬身+短首差の3着。2着Loup Bretonとは首の上げ下げの差だ。休み明け、良馬場で高速決着(2:09,43)という条件でよく走っている。次走はコロネーションC(英Gr.I)を予定しており、力馬Adlerflugにはこちらの方が向いていて楽しみだ。

今週も昨年度振り返りで取り上げた注目馬が登場。5月1日サンクルーのミュゲ賞(Gr.II)にはPrecious Boy、ミュールハイムの長距離準重賞ジルベルネス・バントにValdinoが出走する。また3日フランクフルトの3歳春季賞(Gr.III)では前走未勝利戦を7-2-9-5-34馬身で後続を蹴散らしたSaphirが人気を集めそうだ。

だがここで敢えて1日ブレーメン1Rに行われる平場戦It'sGino-Cupに注目したい。このレースは2008年6月1日以来未勝利(最下級条件を除く)の古馬戦で、明らかな格下か、デビューが遅れてまだ1、2戦しかしてないような馬が主に出走する。だがその中に1頭、過去のGAGが91kgの馬がいる。Löwenherzだ。2006年、2歳時にユニオーレン賞(準重賞)を勝った馬である。このレース、1番人気のNext Styleが直線でそつなく抜け出し、セイフティーリードを保ってゴールに逃げ込むかと思われた。一方Löwenherzは前が壁になってなかなか抜け出せず、直線半ばで漸く最内に1頭分の隙間が開くとそこへ躊躇い無く突っ込む。そして1完歩ずつNext Styleを追い上げ、並ぶ間もなく一気に抜き去ったのだ。このとき私はデュッセルドルフ競馬場の馬場でファインダー越しにこのシーンを見、シャッターを切りながら鳥肌が立ったのを覚えている。まだ銀塩で撮っていた頃なのでスキャン画像の画質が悪いが、よかったら見て欲しい(ココ。写真をクリックすると次の写真に移ります)。Löwenherzとは「ライオンハート」という意味で、レース後ヴェーラー師は「この馬は本当に獅子のハートを持っている。」と語り、3歳以降に大きな期待を膨らませていた。

しかし3歳初戦のブッシュメモリアルでは、発汗が酷く本調子とは言えずに4着。その後5月にフランスのGr.IIIに出るが6着に敗退して、それからすっかり音沙汰が無くなってしまった。この世界ではそのまま消えていく馬は数知れず、残念ながらLöwenherzもその1頭になってしまったかと私も諦めていた。

だが丸2年のブランクを経てLöwenherz戻ってきた。レース名もIt'sGino-Cupとは粋じゃないか。この間に去勢され種牡馬としての未来は断たれてしまったが、それこそ現役として復活させるだけの価値は残っていたということだ。ドイツの大手馬主は、馬に将来性がないと判断すると小規模な個人馬主に払い下げてしまう。しかしLöwenherzの馬主はフェアホフ牧場のままである。調教師がヴェーラーではなくストークスになっているが、彼は調教師資格を持ったフェアホフ牧場のトレーナーであり、レーシングマネージャーである。ドバイに遠征しているときのQuijanoなんかは、実際のところシールゲンではなく、現地で専らストークスが調教している。Löwenherzの調教師がストークスなのは、今回はまだ試走という部分が強いからだろう。だがこれで順調なスタートを切れば、今年のIt'sGino、いやむしろ同じくブランク後セン馬になって復帰し国際Gr.I級にまで登りつめたQuijanoのようになるかもしれない。フェアホフ牧場の若旦那ヤコプスやストークスは、正しく第2のQuijanoとして期待をかけているに違いない。となると、恐らくメインシーズン中は条件戦で慎重に力を付け、来年ドバイでブレイクというスケジュールになるのだろう。少々先は長いが、今から動向を見守っていて損はないはずだ。

まあ最後に正直に打ち明けると、この馬、当時やってたドイツ競馬POGの私の持ち馬なのである。しかし贔屓目以上の可能性は十分にある。

というわけで今晩注目な訳だが、実は伊勢参りと天皇賞観戦に行くため、結果確認は3日の晩になりそう。

posted by 芝周志 at 04:07| Comment(0) | TrackBack(0) | ドイツ競馬

2009年04月22日

Overdoseフィーバー

前回のエントリー内でも触れたとおり、19日(日)に地元ブダペストのキンツェム・パーク競馬場でOverdoseが今期始動。ハンガリーローカルGr.IにあたるOTPハンガリー大賞(1000m)を8馬身差で快勝した。(関係ないけど1000mレースがお国の名を冠したグランプリとはちょっと驚き。原語では"OTP-Hungária Nagydij"となっている。18年前、社会主義体制が崩壊して間もないジェールの街で、マジャール語が分からず、ドイツ語も英語もろくに通じない状況に、早くも進出していたマクドナルドで寂しさを紛らわしていた芝は、そのあと露天古本商でマジャール語-ドイツ語、ドイツ語-マジャール語辞典(携帯サイズ)を見つけ、藁をも縋るように買ってしまった。それぞれ背表紙には128フォリントと書いてあるけど、約5マルク(当時のレートで400円程度か)くらい払った記憶がある。長年実家の書棚に眠っていたのを今の住処に持ってきてあったのが、今役に立ちましたよ。"Nagy"が「大きい」で"gij"が「賞」だから、やはり「ハンガリー大賞」でOK。でも、本当に国民的正統性を持った名称なら、"Hungária"じゃなくて、"Magyar Nagydij"になるんだろうな。ちょっとグーグル先生に尋ねたら、F1にはあるってすぐに教えてくれた。競馬にもあるかどうかはもっと先生の懐に入っていかないと分からないのか…。)

早速YouTubeに映像が上がっていたので、貼り付けておきます。

スミヨンの腕がまるで動いてない。騎手学校1年生が乗っても勝てるんじゃないかというくらいの楽勝だ。鞍上は出来ればスボリッチのままいってもらいたかったのだけど、今後は英仏のレースに積極的に挑戦することを考えれば、国際レベルの経験とスター性からスミヨンというのも仕方ないかもしれない。ただスミヨンが他の馬にいってしまう可能性はあるが。一応この後は英国へ渡り、まずヘイドックのテンプルS(英Gr.II)を使う予定で、その後はロイヤルアスコットということだから、ゴールデンジュビリーS(英Gr.I)を目指すことになるのだろう。なんともワクワクする。

そんなワクワク感は当然マジャール国民の間でも凄いんじゃないかと思って、マジャール語が分からないなりにまたグーグル先生ニュースに訊いてみた。内容はさっぱりだが、4月20日付でも結構ヒットしているし、やはり相当話題になっているのだろう。案外ディープインパクト並のブームになってるのかもしれない。YouTubeでもレースだけじゃなく、テレビで特集をやってたようなのが上がってるし。

で、グーグル検索でヒットしたニュースの中に私でもすぐに見当がつく見出しがあった。

A New York Times is felfigyelt Overdose

ニューヨークタイムズにも載っちゃったぜ!って記事。で、調べてみたら、なんと1面写真入だよ!

ニューヨークタイムズ4月20日1面キャプチャーページ

アメリカでも話題になるって凄いなぁ。記事は以下。

Hungary’s Spirits Are Back Up, on a Horse

どうやら「ハンガリーのシービスケット」っていうことらしい。まあちょっと違うような気がするけど、国そのものが中小企業といった経済クラスの国民にとっては、確かに夢と勇気を与える存在として映るのだろう。日本人にとってはディープインパクトより、石油ショック間もない頃のハイセイコーのほうが近いのかも。無敵のスプリンターという意味では、香港のSilent Witnessフィーバーにオーバーラップする。まあいずれにせよ、マジャール人に「キンツェムって知ってる?」と訊けば大抵19世紀の名牝と答えるくらい(私も過去何人かに試したが、男は100%「もちろん!」と答えた)競馬が国民的記憶になっている国なのだから、Overdoseがただならぬ人気になっていることは想像に難くない。最終的に暮れの香港スプリントにでも来ることになったら、万難を排して私も是非見に行きたい。

posted by 芝周志 at 01:23| Comment(0) | TrackBack(0) | 海外競馬

2009年04月20日

今更2008年ドイツ競馬を振り返る【距離別】

皐月賞行ってきた。写真はアップしてあるので、よろしかったらプロフィールにURLが貼ってあるメインサイトの「Race Gallery」から覗いてみてください。

アンライバルドに対しては、悪条件のスプリングSでの勝ち方に目を見張るものがあったので、正直かなり気持ちは揺れていたのだけど、やっぱりノリちゃんに久々Gr.Iを勝ってもらいたい思いの方が強かったもので、ぐりぐり人気と分かっていてもここはロジユニヴァースで勝負せざるを得なかった。直線で馬が全く動いていなかったのだから、敗因は力関係や距離とかではなく、馬自身の調子の問題と見るべきなのだろう。自分はドイツで競馬をやってきたせいで馬体重の数字自体は全く考慮しないようになっているのだけど、やはり今回のマイナス10kgは調整がうまくいかなかった表れなのかもしれない。ターフビジョンで見た限り、古馬のように落ち着いた風格が好印象だったんだけどねぇ。ダービーまでに立て直せるか、いっそ秋まで時間をかけてじっくり回復させるか。決してこれで終わる馬ではないと思っている。

しかしなんにしても、アンライバルドは強かった。4角からスパッと先頭に立ったあの脚は、まるでワープだ。2400mへの距離延長は問題ないだろうし、ロジが一気に回復してくるのでもない限り、ダービーはこの馬が軸で間違いないだろう。激しい気性が良い形でレースに繋がる限り、この馬はかなりの大物になるかもしれない。

一方気性という意味では、リーチザクラウンの方は困りものだ。血統や体型的には長距離の方が向いてるような気がするのだが、如何せんあの気性ではうまく折り合いもつけられまい。秋までに一皮向ければ菊花賞の最有力候補になるのだろうが、それゆえダービーは完全に度外視することにする。

それでは「今更2008年ドイツ競馬を振り返る」、今回こそはサクッといくぞ!

2000m路線

4月27日ガネー賞(仏Gr.I)でDuke of Marmaladeに½馬身差2着とまずまずのシーズンスタートを切り、5月18日ローマの共和国大統領賞(伊Gr.I)で首差ながらも手堅くGr.Iを制したSaddex。本来ならここから距離を伸ばし、サンクルー大賞からグランプリ路線に交じってくる予定だったのだが、調教での状態に不満が残るため回避。その後いつ復帰になるかなどと2、3ニュースが流れていたら、突然ラウ厩舎からバルトロマイ厩舎への移籍が発表され、更にその1週間後には重度の関節症とかで引退が決定。今年から種牡馬入りとなった。

とはいえ、Saddexはこの路線がメインだったわけではないので他に目を向けると、前年からの期待としてはWiesenpfadやShrek、Axxos辺りが中心になるはずだった。しかしShrekはパッとしないまま未勝利で終わり、今年から種牡馬入り。Axxosは4月のミラノでアンブロシアーノ賞(伊Gr.III)を勝ち古馬になっての成長が期待されたが、Saddexが勝った共和国大統領賞でShrekとともに惨敗し、その後も見せ場無く終了。一応前年パリ大賞(仏Gr.I)2着という勲章があったお蔭か、フランスで種牡馬の口を見つけることができた。

Wiesenpfadは春のバーデナー・マイレ(Gr.III)で始動し、2000mに距離変更されたドルトムントのヴィルツシャフト大賞(Gr.III)も快勝して、どうやらこの馬がこの路線の主役になりそうだと思われた。しかし肝心のダルマイヤー大賞−バイエルン・ツフトレネン(Gr.I)で何故か全く伸びず8着に惨敗。その後Gr.IIIで3着、2着になっているので全くダメだったというわけではないが、この路線の軸というには物足りない成績に終わった。今年の目標はGr.II以上に勝つことだそうだ。

この路線の国内メインであるこのダルマイヤー大賞を制したのは、06年に短距離のゴールデネ・パイチェ(Gr.II)を勝った英国馬Linngari。2着も英国馬Pressingが入り、ドイツ馬最先着が牝馬Fair Breezeの3着だった。正直情けない内容だ。しかし勝ったLinngariの勝ちっぷりは素晴らしく、相手が不足であったにも拘らずGAG99,5kgという高いレートが付いた。Gr.Iとしての体裁はLinngariのお蔭で保てたと言っていい。

こんな感じで尻すぼみ必然に見えたドイツ2000m路線だが、意外な馬が後半戦に花を添えてくれた。Prince Floriだ。06年バーデン大賞馬で年度代表馬のPrince Floriは、前半はグランプリ路線で戦っていたが勝負に絡めず、力の衰えを認めてGr.III中心の2000m後半戦に舞台を移してきたのである。そしてまさに腐ってもGr.Iホースというわけで、バーデンのシュプレッティ・レネン(Gr.III)を快勝、ホッペガルテンのドイツ統一賞(Gr.III)では、フランクフルトのユーロカップ(Gr.III)で圧倒的人気のFair Breezeを下した上がり馬Zaungastを返り討ちにする。そこで次走は2200mのバーデンヴュルテンベルク・トロフィー(Gr.III)を選び、バーデンバーデン3開催での重賞制覇というちょっとマニアックな記録に挑むが、直線で前が開かず追い出しが遅れたせいで、最後に良く伸びていたにも拘らず4着となってしまった。11月16日、国内最後の重賞でありフランクフルトで施行予定だったヘッセンポカールがハノーファー開催に変更され、ランド・トロフィー(Gr.III)として施行、Prince Floriは父の名を冠したレースで圧倒的支持を得るも2着に敗れる。勝ったのは英国牝馬Lady Deauville。鞍上ターナーはドイツの重賞を制した初の女性騎手となるという、ちょっとした話題を残した。Prince Floriは今年も現役続行。春のバーデンかフランスで始動する計画だ。

さてこれで2000m路線の話を閉めたいところなのだが、1頭触れないわけにはいかない馬がいる。Estejo。ドイツ調教馬ではあるが専らイタリアで走り、ドルトムントのヴィルツシャフト大賞にこそ交じってたものの離された6着で、正直なところ「誰だオマエは?」という感じの馬だった。しかし11月9日ローマ賞(伊Gr.I)で大穴を開けたのがこの馬だ。ストライキで開催が不確かだったせいで国外からの参戦が殆どなく、レースのレベルとしては例年より低かったかもしれないが、一応Gr.IはGr.Iである。GAGは96.5kg付き、香港カップにも招待される。もっともそこでは13着に惨敗するが。馬主がイタリア人ということなので、今年もミラノやローマを中心に走るのだろう。

最優秀中距離(2000m)馬を選ぶとなると非常に難しいのだが、前ブログの頃からのマイルールで、対象はドイツ調教馬及びドイツで出走した外国馬なので、パフォーマンスの高さからダルマイヤー大賞を勝ったLinngariにする。国内馬に絞るとなるとGr.Iの実績故にEstejoにすべきところなのだろうけど、あまりにドイツ馬としての印象がないので、すっきりしない。大体デュッセルドルフ調教馬であるにも拘らず、デュッセルドルフ年度代表馬にはPrince Floriが3年連続で選ばれてしまっているのだ。まあ将来性を鑑みて、3歳牡馬編で触れたLiang Kayにしておくのが無難だろう。

スプリント路線

ここは外国馬であるにも拘らずドイツ馬並の人気と支持を独占したOverdoseに尽きる。この路線を長年牽引してきた10歳Lucky Strikeが春バーデンのベネツェット・レネン(Gr.III)で6着に敗退しその役目を終え、上がり馬Abbadjinnがその役を引き継ぐことになるが、Overdoseはその翌日3歳準重賞ランソンカップで1200m戦を直線だけで9馬身差にブッ千切り、衝撃のドイツデビューを果たした。それまで本国ハンガリーやスロヴァキア、オーストリアで走り、6戦全勝。しかも全て6~18馬身差の圧勝である。この後スロヴァキアの準重賞を8馬身差で軽く制し、再びドイツに現れたのがダービー前日のロットー・ハンブルク・トロフィー(Gr.III)で初の重賞挑戦である。だがここでは意外に苦戦し、Abbadjinnの追撃を振り切るものの、着差は僅かに1½。古馬に交じってはそこまで強くないのかと思われた。しかしレース後にリバルスキー調教師が明かしたところによると、その日の朝に挫石してレースに出すべきか迷う状態だったというのだ。リバルスキー師はここでOverdoseに一息入れさせることにし、復帰戦はバーデンのゴールデネ・パイチェ(Gr.II)に定める。この間、ケルンのジルベルネ・パイチェ(Gr.III)は再びAbbadjinnが勝利し、国内ではこの馬が抜けていることが証明されるのだが、結局はOverdoseを引き立てる演出効果にしかならない。

迎えた8月31日ゴールデネ・パイチェ(Gr.II)。Abbadjinnは軽快に先頭を走るOverdoseへ喰らいつこうとするが、ハンブルクの時と違い、脅かすほどにはまるで至らない。着差こそ2½であったが、裁定委員が付けたレース評価はÜberlegen(圧勝)である。このレースからコンビを組んだスボリッチと共に、陣営は自信を持って10月5日凱旋門賞デイのアベイユ・ド・ロンシャン賞(仏Gr.I)に向かった。

だが周知のとおり、このレースは陣営にとって怒りと失望で記憶されるものとなった。Overdoseはブッ千切りの1着で駆け抜けたにも拘らず、このレースはカンパイで無効となってしまったのだ。レースは異例にも最終レースに回されやり直しとなったが、全力で完走してしまったOverdoseは出走を回避。幻のGr.I制覇となってしまった。やり直しレースで勝ったMarchand d'orの勝ちタイムが0:54,00で、Overdoseと同タイムなのが実に悔しいところだ。

YouTubeに両レースを並べた比較映像があったので下に貼り付けるが、この動画の最後にあるスタート直後を発走ゲートの後ろから撮った映像を見て欲しい。前ブログで訳したスボリッチのインタビューで彼は、スターター助手が赤旗を揚げていたのは見えたが振り下ろしておらず、また警告ランプは点灯していなかったと証言している。映像はスターター助手と警告ランプの横を駆け抜ける前で切れているが、確かにこの時点ではスボリッチの証言どおりであり、この直後にランプが点いたとしても横目で確認するには既に厳しい位置だったと思われる。

これとは別の全画面による映像も上がっているが、よく見るとスボリッチは確かに証言どおり何度も後ろを振り返り、400m地点で再度振り返って追ってくる馬がいるのを確認してからスパートをかけている。先頭を走っていた馬の騎手としては、途中で馬を止めるのは確かに厳しい状況だったといえるだろう。まったく残念としか言いようがない。

Overdoseはその後香港スプリントへ行くプランもあったが、それを取り止め、11月16日ローマのGr.III戦に出走し、10馬身差で制して、ロンシャンでのフラストレーションを晴らした。今年は4月19日、即ちこのエントリーを上げる少し前に本国ハンガリーで始動。今回はなんとスミヨンを背に、ハンガリーローカルGr.Iの1000m戦を10馬身差で圧勝ということだ。

最優秀スプリント馬は、最早書くまでもなくOverdose。国内馬で選ぶなら、ゴールデネ・パイチェ後準重賞を2勝し、Overdoseがいなければ敵なしだったAbbadjinnで文句なし。

マイル路線

この路線については既に3歳牡馬編で書いたことがほぼ全て。メール・ミュルヘンス・レネン(独2000ギニー・Gr.II)と大オイローパ・マイレ(Gr.II)を制したPrecious Boyが明らかに1枚抜けており、Precious Boyが休養に入ってたこの2レースの間に重賞を勝った馬は、エッティンゲンレネン(Gr.II)を勝った英国馬Loveraceを除き、どれもこのどちらかのレースでPrecious Boyに敗れている。10月12日1700m戦の州都デュッセルドルフ大賞(Gr.III)でチェコに移籍していた元ホーファー厩舎所属の重賞馬Apollo Starがやって来て、Wiesenpfadに11馬身差をつけて圧勝するというちょっとした事件のようなレースもあったが、路線本流としてみれば最優秀マイラーはPrecious Boyで文句なしだ。今年はミュゲ賞(仏Gr.II)から始動予定。

長距離路線

長距離路線といえばバルトロマイ厩舎のLe Miracleがフランスを舞台に孤軍奮闘しているくらいで、世界の競馬界全体が短距離スピード化の傾向にある中、ドイツもそれに違わずレベル低下は著しい。だがそのような中で底知れぬ能力を秘めた3歳馬が現れた。Valdinoである。

4月のデビュー戦は果敢に逃げ、よく粘っての2着。勝ったのが既にレース使って上積みのあったOstland、後のダービー2着馬である。次走で未勝利を抜け出し、続く条件古馬とのハンデ戦(Agl.III)も順調に勝ち上がる。ここまで2200〜2400m戦を走り、勝った2戦の着差はそれぞれ首差で、決して圧倒的な強さを示したわけではない。しかし危ういレースだったかといえば、裁定委員が出したレース評価はいずれもSicher(確勝)、着差以上の安定感があるのである。このハンデ戦が行われたのはウニオン・レネンの日で、ダービーにもギリギリ間に合う時期なのだが、Valdinoは既にセン馬であり、残念ながらダービーへの出走権がない。だがそれゆえ陣営は慌てずじっくりこの馬の能力を高めることに専念した。

次に選んだレースはケルンの3000m準重賞で、Valdinoはこの辺から凄みを見せ始める。人気は重賞でも好走するベテランBrisantが集め、ハンデ戦上がりのValdinoはまだ信頼の評価を得ていなかった。しかしValdinoは自らレースを先導し、直線に入って仕掛けると、スッと2番手以下を引き離し、そのまま危なげなくゴール。2馬身の着差はこの先何百メートル走っても縮まらないだろうというくらい楽勝であった。

そして9月3日、事実上セントレジャー・トライアルであるバーデナー・ステイヤー・カップ(準重賞)に出走、ここでは中団でのレースとなるが、3、4コーナーで前に並びかけ、直線に入ると同時に先頭へ。後は馬場の真ん中をゴールまでただ我が道を進むが如く突き進み、2着Brisantを7馬身差に引き離して圧勝した。

ここまでくれば、この目立たない長距離路線に優れた能力を秘めた馬が現れたことに誰もが気付く。そして迎えた独セントレジャー(Gr.III)。ここを草刈場にすべく英国、フランスからオープン特別クラスの馬も集まるが、ドイツの観衆は1.7倍でValdinoを圧倒的に支持。そしてValdinoはその期待に十分すぎるほどのパフォーマンスで応える。3番手から直線に入ると同時に自らスーッと先頭に出るが、鞍上ヘリアーの腕は全く動いていないのだ。そして長い直線の残り400m地点で手綱を扱き気合を入れると、2着以下をあっという間に引き離し、最後は流す余裕で6馬身差の圧勝である。通常対戦メンバーのレベルが低ければGAGもそれほど大盤振る舞いされないものだが、このレース後にValdinoに与えられたGAGは97.5kg。2年前の06年にダービー馬としては近年珍しくレジャーに出走したSchiaparelliが、そのダービーでのレートをそのまま評価されて97.5kgだった。それゆえ5年前にGr.IIIへ格下げされたセントレジャーでこの評価は異例の高さといえる。ダービー直後のKamsinのGAGも98kgであるし、この強さはハンディキャッパーも本物と認めたのだ。

今年の初戦として当初4月26日のゲーリンク賞(Gr.II)に登録してあったが、このブログアップの時点では既に名前が消えている。その代わり5月1日ミュールハイムの長距離準重賞ズィルベルネス・バントの方に名前があるので、一応今年も長距離戦で行くのかもしれない。しかしこの馬なら2400mでも十分通用すると思う。長距離でもドイツ国内で満足することなく、英仏へ積極的にチャレンジして欲しいものだ。

ということで、最優秀長距離馬は異論無しにValdinoである。

で、やっぱりサクッと終わらなかった…orz。詰まるところ、昨年書きたいネタとして頭にありながらサボってたものを、ここでついつい吐き出してしまうものだからコンパクトに収まらないんだな。あとは2歳戦をまとめるべきなんだろうけど、さっき行われたドクター・ブッシュ・メモリアル(Gr.III)で新たな勢力図が現れてきたので、ちょっと書き方考えます。

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