皐月賞行ってきた。写真はアップしてあるので、よろしかったらプロフィールにURLが貼ってあるメインサイトの「Race Gallery」から覗いてみてください。
アンライバルドに対しては、悪条件のスプリングSでの勝ち方に目を見張るものがあったので、正直かなり気持ちは揺れていたのだけど、やっぱりノリちゃんに久々Gr.Iを勝ってもらいたい思いの方が強かったもので、ぐりぐり人気と分かっていてもここはロジユニヴァースで勝負せざるを得なかった。直線で馬が全く動いていなかったのだから、敗因は力関係や距離とかではなく、馬自身の調子の問題と見るべきなのだろう。自分はドイツで競馬をやってきたせいで馬体重の数字自体は全く考慮しないようになっているのだけど、やはり今回のマイナス10kgは調整がうまくいかなかった表れなのかもしれない。ターフビジョンで見た限り、古馬のように落ち着いた風格が好印象だったんだけどねぇ。ダービーまでに立て直せるか、いっそ秋まで時間をかけてじっくり回復させるか。決してこれで終わる馬ではないと思っている。
しかしなんにしても、アンライバルドは強かった。4角からスパッと先頭に立ったあの脚は、まるでワープだ。2400mへの距離延長は問題ないだろうし、ロジが一気に回復してくるのでもない限り、ダービーはこの馬が軸で間違いないだろう。激しい気性が良い形でレースに繋がる限り、この馬はかなりの大物になるかもしれない。
一方気性という意味では、リーチザクラウンの方は困りものだ。血統や体型的には長距離の方が向いてるような気がするのだが、如何せんあの気性ではうまく折り合いもつけられまい。秋までに一皮向ければ菊花賞の最有力候補になるのだろうが、それゆえダービーは完全に度外視することにする。
それでは「今更2008年ドイツ競馬を振り返る」、今回こそはサクッといくぞ!
2000m路線
4月27日ガネー賞(仏Gr.I)でDuke of Marmaladeに½馬身差2着とまずまずのシーズンスタートを切り、5月18日ローマの共和国大統領賞(伊Gr.I)で首差ながらも手堅くGr.Iを制したSaddex。本来ならここから距離を伸ばし、サンクルー大賞からグランプリ路線に交じってくる予定だったのだが、調教での状態に不満が残るため回避。その後いつ復帰になるかなどと2、3ニュースが流れていたら、突然ラウ厩舎からバルトロマイ厩舎への移籍が発表され、更にその1週間後には重度の関節症とかで引退が決定。今年から種牡馬入りとなった。
とはいえ、Saddexはこの路線がメインだったわけではないので他に目を向けると、前年からの期待としてはWiesenpfadやShrek、Axxos辺りが中心になるはずだった。しかしShrekはパッとしないまま未勝利で終わり、今年から種牡馬入り。Axxosは4月のミラノでアンブロシアーノ賞(伊Gr.III)を勝ち古馬になっての成長が期待されたが、Saddexが勝った共和国大統領賞でShrekとともに惨敗し、その後も見せ場無く終了。一応前年パリ大賞(仏Gr.I)2着という勲章があったお蔭か、フランスで種牡馬の口を見つけることができた。
Wiesenpfadは春のバーデナー・マイレ(Gr.III) で始動し、2000mに距離変更されたドルトムントのヴィルツシャフト大賞(Gr.III) も快勝して、どうやらこの馬がこの路線の主役になりそうだと思われた。しかし肝心のダルマイヤー大賞−バイエルン・ツフトレネン(Gr.I) で何故か全く伸びず8着に惨敗。その後Gr.IIIで3着、2着になっているので全くダメだったというわけではないが、この路線の軸というには物足りない成績に終わった。今年の目標はGr.II以上に勝つことだそうだ。
この路線の国内メインであるこのダルマイヤー大賞を制したのは、06年に短距離のゴールデネ・パイチェ(Gr.II)を勝った英国馬Linngari。2着も英国馬Pressingが入り、ドイツ馬最先着が牝馬Fair Breezeの3着だった。正直情けない内容だ。しかし勝ったLinngariの勝ちっぷりは素晴らしく、相手が不足であったにも拘らずGAG99,5kgという高いレートが付いた。Gr.Iとしての体裁はLinngariのお蔭で保てたと言っていい。
こんな感じで尻すぼみ必然に見えたドイツ2000m路線だが、意外な馬が後半戦に花を添えてくれた。Prince Floriだ。06年バーデン大賞馬で年度代表馬のPrince Floriは、前半はグランプリ路線で戦っていたが勝負に絡めず、力の衰えを認めてGr.III中心の2000m後半戦に舞台を移してきたのである。そしてまさに腐ってもGr.Iホースというわけで、バーデンのシュプレッティ・レネン(Gr.III) を快勝、ホッペガルテンのドイツ統一賞(Gr.III) では、フランクフルトのユーロカップ(Gr.III) で圧倒的人気のFair Breezeを下した上がり馬Zaungastを返り討ちにする。そこで次走は2200mのバーデンヴュルテンベルク・トロフィー(Gr.III) を選び、バーデンバーデン3開催での重賞制覇というちょっとマニアックな記録に挑むが、直線で前が開かず追い出しが遅れたせいで、最後に良く伸びていたにも拘らず4着となってしまった。11月16日、国内最後の重賞でありフランクフルトで施行予定だったヘッセンポカールがハノーファー開催に変更され、ランド・トロフィー(Gr.III) として施行、Prince Floriは父の名を冠したレースで圧倒的支持を得るも2着に敗れる。勝ったのは英国牝馬Lady Deauville。鞍上ターナーはドイツの重賞を制した初の女性騎手となるという、ちょっとした話題を残した。Prince Floriは今年も現役続行。春のバーデンかフランスで始動する計画だ。
さてこれで2000m路線の話を閉めたいところなのだが、1頭触れないわけにはいかない馬がいる。Estejo。ドイツ調教馬ではあるが専らイタリアで走り、ドルトムントのヴィルツシャフト大賞にこそ交じってたものの離された6着で、正直なところ「誰だオマエは?」という感じの馬だった。しかし11月9日ローマ賞(伊Gr.I)で大穴を開けたのがこの馬だ。ストライキで開催が不確かだったせいで国外からの参戦が殆どなく、レースのレベルとしては例年より低かったかもしれないが、一応Gr.IはGr.Iである。GAGは96.5kg付き、香港カップにも招待される。もっともそこでは13着に惨敗するが。馬主がイタリア人ということなので、今年もミラノやローマを中心に走るのだろう。
最優秀中距離(2000m)馬を選ぶとなると非常に難しいのだが、前ブログの頃からのマイルールで、対象はドイツ調教馬及びドイツで出走した外国馬なので、パフォーマンスの高さからダルマイヤー大賞を勝ったLinngariにする。国内馬に絞るとなるとGr.Iの実績故にEstejoにすべきところなのだろうけど、あまりにドイツ馬としての印象がないので、すっきりしない。大体デュッセルドルフ調教馬であるにも拘らず、デュッセルドルフ年度代表馬にはPrince Floriが3年連続で選ばれてしまっているのだ。まあ将来性を鑑みて、3歳牡馬編で触れたLiang Kayにしておくのが無難だろう。
スプリント路線
ここは外国馬であるにも拘らずドイツ馬並の人気と支持を独占したOverdoseに尽きる。この路線を長年牽引してきた10歳Lucky Strikeが春バーデンのベネツェット・レネン(Gr.III) で6着に敗退しその役目を終え、上がり馬Abbadjinnがその役を引き継ぐことになるが、Overdoseはその翌日3歳準重賞ランソンカップ で1200m戦を直線だけで9馬身差にブッ千切り、衝撃のドイツデビューを果たした。それまで本国ハンガリーやスロヴァキア、オーストリアで走り、6戦全勝。しかも全て6~18馬身差の圧勝である。この後スロヴァキアの準重賞を8馬身差で軽く制し、再びドイツに現れたのがダービー前日のロットー・ハンブルク・トロフィー(Gr.III) で初の重賞挑戦である。だがここでは意外に苦戦し、Abbadjinnの追撃を振り切るものの、着差は僅かに1½。古馬に交じってはそこまで強くないのかと思われた。しかしレース後にリバルスキー調教師が明かしたところによると、その日の朝に挫石してレースに出すべきか迷う状態だったというのだ。リバルスキー師はここでOverdoseに一息入れさせることにし、復帰戦はバーデンのゴールデネ・パイチェ(Gr.II)に定める。この間、ケルンのジルベルネ・パイチェ(Gr.III) は再びAbbadjinnが勝利し、国内ではこの馬が抜けていることが証明されるのだが、結局はOverdoseを引き立てる演出効果にしかならない。
迎えた8月31日ゴールデネ・パイチェ(Gr.II) 。Abbadjinnは軽快に先頭を走るOverdoseへ喰らいつこうとするが、ハンブルクの時と違い、脅かすほどにはまるで至らない。着差こそ2½であったが、裁定委員が付けたレース評価はÜberlegen(圧勝)である。このレースからコンビを組んだスボリッチと共に、陣営は自信を持って10月5日凱旋門賞デイのアベイユ・ド・ロンシャン賞(仏Gr.I)に向かった。
だが周知のとおり、このレースは陣営にとって怒りと失望で記憶されるものとなった。Overdoseはブッ千切りの1着で駆け抜けたにも拘らず、このレースはカンパイで無効となってしまったのだ。レースは異例にも最終レースに回されやり直しとなったが、全力で完走してしまったOverdoseは出走を回避。幻のGr.I制覇となってしまった。やり直しレースで勝ったMarchand d'orの勝ちタイムが0:54,00で、Overdoseと同タイムなのが実に悔しいところだ。
YouTubeに両レースを並べた比較映像があったので下に貼り付けるが、この動画の最後にあるスタート直後を発走ゲートの後ろから撮った映像を見て欲しい。前ブログで訳したスボリッチのインタビュー で彼は、スターター助手が赤旗を揚げていたのは見えたが振り下ろしておらず、また警告ランプは点灯していなかったと証言している。映像はスターター助手と警告ランプの横を駆け抜ける前で切れているが、確かにこの時点ではスボリッチの証言どおりであり、この直後にランプが点いたとしても横目で確認するには既に厳しい位置だったと思われる。
これとは別の全画面による映像 も上がっているが、よく見るとスボリッチは確かに証言どおり何度も後ろを振り返り、400m地点で再度振り返って追ってくる馬がいるのを確認してからスパートをかけている。先頭を走っていた馬の騎手としては、途中で馬を止めるのは確かに厳しい状況だったといえるだろう。まったく残念としか言いようがない。
Overdoseはその後香港スプリントへ行くプランもあったが、それを取り止め、11月16日ローマのGr.III戦に出走し、10馬身差で制して、ロンシャンでのフラストレーションを晴らした。今年は4月19日、即ちこのエントリーを上げる少し前に本国ハンガリーで始動。今回はなんとスミヨンを背に、ハンガリーローカルGr.Iの1000m戦を10馬身差で圧勝ということだ。
最優秀スプリント馬は、最早書くまでもなくOverdose。国内馬で選ぶなら、ゴールデネ・パイチェ後準重賞を2勝し、Overdoseがいなければ敵なしだったAbbadjinnで文句なし。
マイル路線
この路線については既に3歳牡馬編で書いたことがほぼ全て。メール・ミュルヘンス・レネン(独2000ギニー・Gr.II) と大オイローパ・マイレ(Gr.II) を制したPrecious Boyが明らかに1枚抜けており、Precious Boyが休養に入ってたこの2レースの間に重賞を勝った馬は、エッティンゲンレネン(Gr.II) を勝った英国馬Loveraceを除き、どれもこのどちらかのレースでPrecious Boyに敗れている。10月12日1700m戦の州都デュッセルドルフ大賞(Gr.III) でチェコに移籍していた元ホーファー厩舎所属の重賞馬Apollo Starがやって来て、Wiesenpfadに11馬身差をつけて圧勝するというちょっとした事件のようなレースもあったが、路線本流としてみれば最優秀マイラーはPrecious Boyで文句なしだ。今年はミュゲ賞(仏Gr.II)から始動予定。
長距離路線
長距離路線といえばバルトロマイ厩舎のLe Miracleがフランスを舞台に孤軍奮闘しているくらいで、世界の競馬界全体が短距離スピード化の傾向にある中、ドイツもそれに違わずレベル低下は著しい。だがそのような中で底知れぬ能力を秘めた3歳馬が現れた。Valdinoである。
4月のデビュー戦は果敢に逃げ、よく粘っての2着。勝ったのが既にレース使って上積みのあったOstland、後のダービー2着馬である。次走で未勝利を抜け出し、続く条件古馬とのハンデ戦(Agl.III)も順調に勝ち上がる。ここまで2200〜2400m戦を走り、勝った2戦の着差はそれぞれ首差で、決して圧倒的な強さを示したわけではない。しかし危ういレースだったかといえば、裁定委員が出したレース評価はいずれもSicher(確勝)、着差以上の安定感があるのである。このハンデ戦が行われたのはウニオン・レネンの日で、ダービーにもギリギリ間に合う時期なのだが、Valdinoは既にセン馬であり、残念ながらダービーへの出走権がない。だがそれゆえ陣営は慌てずじっくりこの馬の能力を高めることに専念した。
次に選んだレースはケルンの3000m準重賞 で、Valdinoはこの辺から凄みを見せ始める。人気は重賞でも好走するベテランBrisantが集め、ハンデ戦上がりのValdinoはまだ信頼の評価を得ていなかった。しかしValdinoは自らレースを先導し、直線に入って仕掛けると、スッと2番手以下を引き離し、そのまま危なげなくゴール。2馬身の着差はこの先何百メートル走っても縮まらないだろうというくらい楽勝であった。
そして9月3日、事実上セントレジャー・トライアルであるバーデナー・ステイヤー・カップ(準重賞) に出走、ここでは中団でのレースとなるが、3、4コーナーで前に並びかけ、直線に入ると同時に先頭へ。後は馬場の真ん中をゴールまでただ我が道を進むが如く突き進み、2着Brisantを7馬身差に引き離して圧勝した。
ここまでくれば、この目立たない長距離路線に優れた能力を秘めた馬が現れたことに誰もが気付く。そして迎えた独セントレジャー(Gr.III) 。ここを草刈場にすべく英国、フランスからオープン特別クラスの馬も集まるが、ドイツの観衆は1.7倍でValdinoを圧倒的に支持。そしてValdinoはその期待に十分すぎるほどのパフォーマンスで応える。3番手から直線に入ると同時に自らスーッと先頭に出るが、鞍上ヘリアーの腕は全く動いていないのだ。そして長い直線の残り400m地点で手綱を扱き気合を入れると、2着以下をあっという間に引き離し、最後は流す余裕で6馬身差の圧勝である。通常対戦メンバーのレベルが低ければGAGもそれほど大盤振る舞いされないものだが、このレース後にValdinoに与えられたGAGは97.5kg。2年前の06年にダービー馬としては近年珍しくレジャーに出走したSchiaparelliが、そのダービーでのレートをそのまま評価されて97.5kgだった。それゆえ5年前にGr.IIIへ格下げされたセントレジャーでこの評価は異例の高さといえる。ダービー直後のKamsinのGAGも98kgであるし、この強さはハンディキャッパーも本物と認めたのだ。
今年の初戦として当初4月26日のゲーリンク賞(Gr.II)に登録してあったが、このブログアップの時点では既に名前が消えている。その代わり5月1日ミュールハイムの長距離準重賞ズィルベルネス・バントの方に名前があるので、一応今年も長距離戦で行くのかもしれない。しかしこの馬なら2400mでも十分通用すると思う。長距離でもドイツ国内で満足することなく、英仏へ積極的にチャレンジして欲しいものだ。
ということで、最優秀長距離馬は異論無しにValdinoである。
で、やっぱりサクッと終わらなかった…orz。詰まるところ、昨年書きたいネタとして頭にありながらサボってたものを、ここでついつい吐き出してしまうものだからコンパクトに収まらないんだな。あとは2歳戦をまとめるべきなんだろうけど、さっき行われたドクター・ブッシュ・メモリアル(Gr.III)で新たな勢力図が現れてきたので、ちょっと書き方考えます。