2011年05月21日

ケンタッキー・ダービー馬Animal Kingdomの母Daliciaとその牝系



 アメリカ競馬は門外漢です(キリッ


 早くも米クラシック第2戦のプリークネスSを日本時間の明朝に控えたところで、遅ればせながら5月7日にケンタッキー・ダービーを制し、間もなく二冠目に臨むAnimal Kingdomの牝系について書いてみようかと。

 因みにAnimal Kingdomを略すと「あにき」が頭をよぎるのだが、擬人化クラスタからのコンセンサスは全く取れていない。

 さておき、アメリカ競馬門外漢の私が敢えてケンタッキー・ダービー馬などを取り上げたのは他でもない、このAnimal Kingdomの牝系に思い切りドイツ縁の血が流れているからだ。母Daliciaは現役時代ドイツで走っており、私自身の記憶にはあまり強くは残っていないものの、一応生でも見てきているのである。

 Dalicia

 2001年生まれの2004年クラシック世代で、同期のドイツ馬ではShiroccoが日本人には最も通りがよいだろう。生産者はCarlton Consultants Ltd.。英国のベイス(Erika Alice Bass)という馬産家のドイツでの生産者名義で、一時ドイツでサラブレッド生産活動をしていた。調教師はペーター・ラウ、鞍上は厩舎主戦のムンドリーが主に務めている。

 2歳でいきなり牝馬リステッドからデビューしているあたり、厩舎の期待はそれなりに高かったようだが、ここは10着に敗退。しかし年明け未勝利戦を2着し、続けて牝馬リステッドでも2着と、順調なスタートを切った。この時勝ったのがこの時点では世代トップの期待を背負っていたSaldentigerinだから、Daliciaもまあまあの評価を得る存在にはなった。路線としてマイルの1000ギニーには向かわず、1戦挟んでディアナ賞(独オークス・G1)に挑んで5着に健闘している。続けて牝馬混合G3で古馬と初対戦するが、Daliciaと既に何度か対戦しているValleraが古馬を打ち負かしたのに対し、Daliciaは11着と大きく敗退した。この辺りやや安定感の欠けるところはあったのだろう。ここまでのレースで確認できるものを見るかぎり、概ね後方待機から直線での追い込み勝負に賭けるタイプであった。ところでこのVallera、日本に入ってきてるね。

 そもそもこの時点でDaliciaはまだ未勝利である。ようやく初勝利を手にするのが、04年8月15日のブレーメン・オークション・レネン(L)だ。残念ながら自分はこの時のレース映像を確認できないのだが、この時2着に負かした相手が、同厩舎の牡馬Egerton。このEgertonがこの後バーデン大賞に向い、ダービー馬Shiroccoを押さえWarrsanの2着となって「世界最強の未勝利馬」の称号を得たことは、誰もが知るところである(え?)

 Daliciaはその後フランスにも度々遠征し、古馬になってコリーダ賞(G2)でも4着と健闘している。しかし勝ち味には薄く、2勝目を手に入れたのが、秋のバーデン開催の2000m重賞シュパール・カッセ-フィナンツグルッペ賞(G3)だ。このレースには前走G1のバイエルンツフトレネンを制してきたSoldier Hollowが圧倒的人気で参戦しており、Daliciaは単勝21.4倍で、完全な人気薄であった。レースはSoldier Hollowが人気通りに直線でサクっと抜け出してそのまま勝利するかと思えたが、仕掛けが早すぎたのかソラを使ったか、脚色がやや衰えたところを、満を持して後方から追い込んできたDaliciaがばっさり差し切ったのだ。こうして負かした相手を見ると、意外にこの馬は持ってるものがあったのかもしれない。

 生産者でありオーナーのCarlton Consultants Ltd.がこの年一杯でドイツの厩舎と生産活動を閉じたことで、Daliciaはオークションに載せられ、40万ユーロでアメリカに売られる。移籍後のレース振りは分からないのだが、一応1勝をあげ、ビヴァリーヒルズH(Gr. II)で4着になっているようだ。通算成績は24戦3勝。しかし重賞やリステッドでの入着回数は多く、オープン馬としてはまずまず優秀な成績を残したといえるだろう。

 Daliciaの牝系を遡ろう。

 Animal Kingdomの祖母、Daliciaの母であるDynamisはレットゲン牧場の生産馬だ。英国でシェイク・アハメッド・アル・マクトゥームの馬として、後にDaliciaのオーナーであるベイスに買われて走ったが、18戦未勝利で終わったらしい。産駒はDaliciaが最も優秀であるが、Daliciaの全妹Darwinaの産駒Daveronが先日のBeaugay S(米G3)を制するなど、肌馬としては優秀だ。

 Dynamisから実質的にドイツを離れてはいるものの、この牝系はレットゲン牧場の基幹の一つDラインである。近年では03年ヘンケル・レネン(独1000ギニー・G2)のDiacadaや06年ダービー2着のDickens等がレットゲンの活躍馬として挙げられる。

 このDライン、遡ってみると分かるように、Didergö以前がハンガリー生産馬で、この馬を5歳の時にレットゲンが購入したところから、ドイツでのラインが始まっている。レットゲンといえばKinczemの直系に当たるWラインを基幹血統に持つことでも知られており、過去においてハンガリーとの縁は深い。去年暮れにAnna Mondaの記事でも少し触れたが、Didergöを輸入したこの時期にはPrince Ippiというハンガリーの名馬Imperialを父に持つ活躍馬も出している。しかしこの頃レットゲン牧場オーナーのルーディ・メール(Rudi Mehl)とその妻であり牧場創業者の娘マリア・メール・ミュルヘンス(Maria Mehl-Mülhens)がハンガリーの馬産界とどのような関係を築いていたのかは、残念ながら自分の手元資料からは分からない。ただ冷戦期にあってもこれほどハンガリーと交流を持っていた牧場は他にないだろう。レットゲンのアーカイヴに入って色々調べると、きっと面白い話が出てきそうな気がする。

 さて、このドイツでの基幹牝馬となるDidergö自身、なかなかの活躍馬だったようで、ドイツにも遠征してミュンヘンの別定戦を勝っている。その母Dussogoも勝ち鞍にSt.Laszlo賞(1300m)とAlag賞(2000m)という当地重賞格のレースがあり、戦後ハンガリー競馬再興期の活躍馬の1頭である。更にその母Dubiosaは戦前最後のハンガリー1000ギニー馬だ。Didergöの生産牧場はハンガリー伝統のキシュベル牧場で、実に筋の通った血統といえるだろう。

 DidergöはImiの仔を身篭ってレットゲンにやってきた。(訂正:DidergöがImiの仔ですね。1代勘違い…)ImiはImperialの父で、まさにハンガリーの名血としてドイツに入ってきたのである。ImiとDidergöの仔(ここも訂正。父はUtrilloで、レットゲン生産のオーストリア・ダービー馬です)Diuはその血に相応しい活躍をした。独1000ギニーを3着後、ディアナ賞を勝利。その後牝馬G3で2着になり、通算成績は10戦4勝、入着4回。産駒でもDiu Starが重賞を2勝している。Daliciaの祖母であり、Diuの孫に当たるDiasprinaはヴィンターケーニギン賞を制している2歳牝馬チャンピオンで、この牝系はやはり名血と呼ぶに相応しいであろう。

 そんな中欧の名血がアメリカに渡ってダートのケンタッキー・ダービーまで制してしまうのだから、競馬というのは奥深い。そしてDaliciaはなんと現在社台で繋養されており、今年ネオユニヴァースの仔を産んだそうだ。明朝プリークネスSのAnimal Kingdomにまずは注目すると同時に、その弟の2年後のデビューも楽しみに待ちたいと思う。
posted by 芝周志 at 23:52| Comment(10) | TrackBack(0) | 海外競馬
この記事へのコメント
ネオユニ×*ダリシア、牡馬に出てガッツポーズ(挨拶

兄筋絡みでちょろっと書きましたが
http://goo.gl/uiRlZ

Dussogo(Duzzogo)の勝ち鞍は、聖ラズロ賞=洪2歳大賞、アラギ賞=洪ウニオンレネンですね、牡牝通じた世代チャンピオン級。Didergoもアラギ賞勝ってるんで、Diuまで4代連続クラシック馬、と。

DiasprinaはシュヴァルツゴルトレネンでFilia Ardrossの2着ですかね。ベルギーで負けた相手がわからないけど。
Posted by さや at 2011年05月22日 00:14
あ。

> DidergöはImiの仔を身篭ってレットゲンにやってきた。…ImiとDidergöの仔Diuは…

一代ズレとる。Diuの父は"ドイツの方のゆとり"でっせ。http://goo.gl/ttgjb
Posted by さや at 2011年05月22日 00:20
鞘様

早速※ありです。
のそのそと私が書く必要もなかったようで…^^;

ハンガリーのレースはさすがによくわかってないので、ご指摘ありがたいです。Dussogoは世代最強クラスだったのですね。

因みにアラギ賞が洪ウニオンとなってますが、ドイツの概念で考えた場合、ウニオンは確かに3歳の古典的重賞レースですが、所謂クラシックレースとしては分類されていません。飽くまで英国の範に即した3レースのみを指します。

Diasprinaはシュヴァルツゴルトの2着ではないですね。出走記録は分かりませんが、その年の2着はDiana Danceです。アメリカからの輸入馬ですね。
Posted by 芝周志 at 2011年05月22日 00:26
鞘様
あ、ホントだ!1代勘違いしてた。
訂正しておきます。どうもありがとうございます!
Posted by 芝周志 at 2011年05月22日 00:28
ごぶさたしております。

さすが2400のMonsun。
あともうちょっとだったなぁ。
Posted by MARU at 2011年05月23日 00:25
どうもご無沙汰です。

相変わらず、渋い馬を取り上げてくれますね。。。
ピュアブリーゼもオークスでこれでもか!の走りを見せましたし、これからも持っている馬の知識を披露して下さいね!仲間のPO馬だったので悔しかったんですが、ドイツに関わる馬が走ると嬉しくなるのは私だけでは無いと思ってます。

今週は東京優駿ですが、私はデボネアの複勝で勝負します!!
Posted by bobinnocent at 2011年05月23日 23:31
MARUさん、ご無沙汰です。
ピュアブリーゼはデビューのときからオークスはこの馬と決めてたので、さすがに燃えました(笑)
実に惜しかったですが、逃げて平均ペースを刻み最後まで粘り込むという、Monsun産駒真骨頂ともいえるレースを善臣さんがやってくれたので、負けて悔しいですが、同時に満足感も得ています。
Posted by 芝周志 at 2011年05月24日 01:08
ボブさん、どうもご無沙汰です。
つか、ブログ記事書かないからコメントいただくときはご無沙汰になってしまうのですがすみませんw

オークスはピュアブリーゼの単複のみでした(笑)

Daliciaについては私自身完全にうろ覚えで、持ってる知識より、殆ど調べて書いてますよw
ピュアブリーゼからもなんか書きたいですが、牝系はドイツ色ないんですよね〜

ダービーはデボネアをナカヤマナイトが頭差差して、ゴール後馬上のデットーリから善臣さんが握手を求められるシーンを見たいですw
Posted by 芝周志 at 2011年05月24日 01:23
ダリシア10を検討してます。どうですかね?
Posted by タイキトルネード at 2011年06月11日 23:26
>タイキトルネードさん
私は一口もPOGもやってないので、その辺の取捨選択は分かりませんし、責任も負えないので、回答は控えさせてください。
Posted by 芝周志 at 2011年06月12日 21:39
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