2010年06月15日

独日の芝を踏みしめて ― 府中馬場開放から一考察

 昨日は春の東京開催最終日であり、最終レース後に馬場開放が行われた。当日配布の整理券1500枚は開門と同時にできた長蛇の列により1レース前にはなくなってしまった。もっとも私のように競馬クラスタ仲間のため2巡目に並んでいた人も少なからずいただろうし、前日に配布された1000枚はかなり余裕をもって配られてたようなので、出遅れずに取りにいく気持ちがあれば手に入らないものではない。

 この馬場開放という行事、今まで全く知らなくて、皐月賞後に中山でやっていたことを後から知り、悔しい思いをした。それゆえこの東京開催最終日はかなり楽しみにしていた。それは普段入れないところに入れるというお得感だけでなく、私としては何より、ドイツで踏みしめてきた馬場との感触の違いを確かめてみたかったのだ。

 ということで、まずそれぞれの写真。

東京競馬場
Fuchu
Fuchu posted by (C)芝周志


ハンブルク競馬場
070701Hamburg
070701Hamburg posted by (C)芝周志


 ハンブルク競馬場はドイツの競馬場の中でも重いほうで知られている。しかし実際のところは、1週間の連続開催で最終日のダービーの馬場が並外れて傷んでいるのが原因で、開催初日や翌日くらいは、結構早いタイムが出ている。この写真は07年のダービー当日の1コーナーであり、この年は開催初日から馬場コンディションの悪さで物議を醸していた。その馬場を自ら踏みしめた印象だと、使われてかなりボコボコしているというのは確かだが、芝が深々として脚が取られるような重さはなかった。馬場状態は5.6の重なので、土壌にはそれなりに湿り気があったのだと思う。

 また、もっともよく足を踏み入れたケルン競馬場(身近な存在ほどわざわざ地面そのものを狙った写真がなくて今更後悔)は、どちらかというと軽い馬場であり、良馬場の日など歩いていて重さを感じることなどなかった。

 さて府中の馬場である。残り300m辺りの外埒側から馬場内へ入ると、なかなか深いクッションの効いた感触が足に伝わってきた。久々に踏んだ馬場なので記憶と比較は難しいが、ケルンのイメージを思い返しても、府中のほうが硬いという感覚はまるでなかった。むしろ傷んでいない外埒側に関しては、府中の芝のほうが深いのではないかと感じたくらいである。

 さすがに内埒へ行くと傷みが多く、砂がむき出しているところも点々と存在する。しかしそれは、馬場の荒れたハンブルク競馬場も同じ。均質でない馬場上を走ればスピードが奪われ、非力な馬ではパワーを維持できなくなる。そのことに独日の違いはない。

 では独日の競馬場に違いはないかというと、そうではない。これは馬場だけでなく、日常的に踏みしめてきた土壌の感覚の違いによるのだが、ドイツ、あるいは英仏あたりも含めたヨーロッパの土壌は、日本の(少なくとも太平洋側平野部の)土壌よりも保湿性がよいのではないかと感じている。つまり、芝が根を張る地面のほうに硬さの違いがあるということだ。

 とにかく今回踏んだ春の府中の芝は青々として瑞々しく、とてもクッションに富んでいる。この芝の弾力性は、ヨーロッパのそれと決して変わらないと感じた。日本の馬場が高速なのは、芝が短く刈り込まれローラーをかけられているなんていう神話のような話が原因ではない。専門家ではないので素人判断と断った上で言うと、比較的硬い土壌の上に程よくクッションの効いた芝が敷き詰められていることで、きっと一蹴りで弾むように前へ進む幅が大きいのだと考えられる。5月上旬の府中で強烈なスピードが出ていたのは、コチコチに硬い馬場だからというのではなく、恵まれた天候によって育ち盛りの芝たちが最も瑞々しく弾力性に充ちていたからではないだろうか。

 ドイツの土壌は保湿性が高いため、曇り続きでしっとりとした冬の間に浸み込んだ水分が、春になってもしばらく残っている。そのため4月は晴れていても重めの馬場が続く。しかし5月、6月の最も天候の良い時期には馬場もある程度乾き、芝も弾力性に富むので、比較的早い時計が出るようになる。もっとも日本ほど土壌が硬くなりきらないため、スピードは日本よりも平均して落ちることになるのだろう。また日本では多少雨が降っても良馬場状態が結構続くが、ドイツではすぐに重くなる。

 兎角、欧州の馬場は重く、日本の高速馬場とはまるで違うといわれている。確かに同じではない。しかし府中の芝を踏み、ドイツの馬場の記憶と比較しても、別物と語るほど極端な違いがあるとは決して感じなかった。英愛はそもそも競馬場によって特徴がばらばらで、アンジュレーションもきついところが殆どだ。これは独仏伊と比較しても異質で、ヨーロッパとして一緒に語ることなど最初からできない。日本の競馬からいきなり対応させるのも難しいだろう。だがフランスのロンシャンなんかは、ドイツの馬場に比べれば明らかに軽い。日本のパンパンの馬場に比べれば平均して重いだろうが、やや重程度を苦にせず京都の坂を駆け上がれる馬ならば、適応できないものではないはずだ。ディープインパクトだけでなく、帯同馬のピカレスクコートだって重賞で2着に好走したのだから、臨戦過程さえきちんと整えれば、日本の一流馬なら凱旋門賞如き高い壁ではない。もともとそのように考えていたが、今回の府中馬場開放を通じて益々その思いを強くした。

◆追記
 早速ツイッターでゆたさんから受けた指摘は重要なので。

 日本は季節に応じて養生が開催日程に間に合わない芝を張り直しているので、根付き方が根本的に違うというのは考慮に入れないといけないのでしょう。それがどのような効果を生んでいるのかは自分には分からないのですが。

 ドイツではどうしているのかは、確かめたことはないので正確には分かりません。蹴って掘り返されたところに植え込むというのはあるでしょうが、しかしケルンやデュッセルドルフのように、継続的に見てきた競馬場は、特に張り替えはやってなかったと思います。ぶっちゃけクローバーも隙間に生えてたくらいで、基本的にはしっかり根付いているのでしょう。
posted by 芝周志 at 01:09| Comment(0) | TrackBack(0) | 競馬その他
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