前回取り上げたミッションモードに続き、13日にも阪神500万下エリカ賞でドイツ母を持つ馬が勝ち上がった。
エイシンフラッシュ
母の名はMoonlady(父Platini)。2000年の3歳時のみ走り、9戦6勝(うち重賞4勝)を収めて、世代最強牝馬に君臨している。2001年に渡独した私は生で見ていないのでRoyal Fantasyのような思い入れはないが、一応この機会にビデオを見てみたところ、なかなか惚れる走りっぷりの馬ではないか。
春は未完成だったためヘンケル・レネン(独1000ギニー)にもディアナ賞(独オークス)にも出走していないのだが、思い切って挑戦したハンブルクでの牝馬G3(2200m)で直線の競り合いを制し、驚きの重賞勝利。続くブレーメンでの内国産牝馬限定準重賞では圧倒的人気で余裕勝ち。ここでエーレンホフ牧場から馬主がゲーリー・タナカ氏に移り、緑と白の勝負服でハノーファーのドイツ牝馬賞(G3, 2400m)に出走。他馬を捻じ伏せ、重賞2勝目を上げる。レース振りは基本的に先行から早めに先頭に立ち、力で押し切るパターンだ。ここまでのレースでの着差はどれもそれ程大きくないのだけど、並びかけてきた馬を決して抜かせない力強い勝負根性が光っている。そして混合戦となる独セントレジャー(G2)では、見るからに重い馬場を重戦車の如く突き進み、長丁場に力尽きた牡馬たちを蹴散らして4馬身差で圧勝した。
そこで伝統のフランス長距離G1ロワイヤルオーク賞に挑戦するが、ここでは良いところなく7着に敗れ、連勝が途切れる。だがその後、日系アメリカ人馬主タナカさんの意向か、ロング・アイランド・ハンディキャプというアメリカの重賞(G2)に臨むことになった。しかもそのレース、直前の大雨で馬場状態が悪化したため急遽ダート戦に変更、距離短縮という、バリバリの重重欧州芝競馬をやってきたMoonlady陣営にとっては「無茶言うなよ!」とツッコミ入れたくなる条件で走らされることになったのだ。だがしかし、Moonladyは初めてのダート戦をものともしなかった。2頭並んで逃げる厳しい展開から4コーナー手前で抜け出し、そこからは後続を寄せ付けず、見事3馬身差でアメリカ馬を圧倒したのである。
母方はナチ時代からのドイツ血統。1938年にニューマーケットのせりで落札されたMorning Breezeがドイツでの始祖となる。この落札者は「ネレイーデ物語4」で出てきた競馬好きナチ官僚のC.ヴェーバーだ。もっともその後フランスから連れてこられた馬たちとは違い正規に輸入されているので、戦後も没収されることなく、再建されたイザーラント牧場の基幹牝馬となっている。ここからエーレンホーフ牧場に分岐した牝系がMoonladyの祖母で1987年牝馬2冠馬のMajoritätを輩出。そこから2004年ウニオン馬でダービー2着のMalinas、2007年ディアナ馬Mistic Lipsへ続くなど、このラインはドイツの名牝系の一つとなっている。また今や欧州の一流種牡馬となったMonsunも、イザーラント牧場に残った牝系の出身だ。現在Moonladyが社台にいるのは、Monsunと同系ということで吉田さんが連れてきたのかもしれない。
さてその息子エイシンフラッシュだが、2000mを2:05.3という随分スローなレースであったものの、終いよく伸び、且つブルーミングアレーとの競り合いを制す勝負根性もあって、今後まだ期待が持てそうだ。しかし上のクラスに行けば当然速い展開も経験することになるだろうし、そのとききっちり付いていかれるかどうかが鍵になるのだろう。
2009年12月15日
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私も詳しくはないのですが、日本に輸入・持込で競争するドイツ牝系馬を応援しています。
エイシンフラッシュが重賞制覇しましたね(笑)
私は好きでPOGなんかも仲間同士でやっておりまして、昨日は嬉しい限りでした(汗笑)
ドイツでも競馬を観戦されてるみたいですね。
牝系なども詳しいようですが、向うの著書なんかを購入されてるんですか?
それともドイツ競馬から紐をといてるのでしょうか?
とにかく、凄くドイツ競馬に精通されてるみたいですね。今後とも宜しくお願いします。
ようこそです。
エイシンフラッシュの重賞制覇、嬉しいですね。POGでお持ちなのでしょうか?
本当は写真も撮りに行きたかったのですが、所用で競馬場へ行かれず残念。次の機会には是非また勝ってフレームに収まってもらいたいものです。
ドイツには2008年2月まで約6年半住んでいたので、その間に競馬場へ通い捲くってました。
メインサイトには一応2005〜07年に撮ったレース写真も載せてあるので(Race Gallery>Archives)、G1でも長閑なドイツ競馬の様子をご覧いただければと。
血統については特に牝系に拘っているわけではないのですが、母馬の頭文字を産駒につけるルールや、厳選されてしまう牡系より様々なラインが残る牝系のほうがいろんな歴史を遡れるので、結果としてそちらの話が多くなってしまうところはあります。もちろんドイツの生産者が独自牝系を育てることに牧場経営の意義を見出している点にも興味が促されます。
ドイツの競馬関連書籍については滞在中に結構かき集めました。もっとも多くは未読で、宝の持ち腐れ状態です…(汗)
とりあえずどんな資料を持っているかくらいは把握してますので、何かご質問があれば気軽に書き込んでください。それからドイツ語を読んで調べることになるので即答とはいきませんが、私にとっても記事ネタになるので、ご遠慮なくどうぞ(笑)
今後ともまったりとお付き合い下さい。
わざわざ有難う御座います。
競馬場に通いまっくったということは奥様の理解も相当深いのでしょうね(笑)
私の浅はかな知識ではドイツといえばA・Sラインがもっとも有名ですが、日本一の生産会社(?)に産駒の所有が変わると名前が変わるのを残念に思っている一人でありました。
ドイツではルールとして頭文字を継承するのがルールとしてあるのですか?
私はそれぞれの所有者のマナーなのかと思っていました。
ドイツではどこが住まいで一番近い競馬場はどこだったのですか?
質問ばかりですいませんが、ドイツで一番のレースはバーデン大賞なんですか?
日本で言えば有馬記念かジャパンカップに当たるのでしょうか?競馬ファンあげてのレースなんですか?年度代表馬なんかに一番影響があるんですか?
まだお近づきになったばかりなのに質問ばかりですいません。出来る範囲でよいので教えて下さい。
どうもです。
>競馬場に通いまっくったということは奥様の理解も相当深いのでしょうね(笑)
あははははははは……。
右サイドバーにある私のプロフィールを是非読んでみて下さい…orz
…さておき
母馬の頭文字を継承するルールの件、改めて訊かれるとちょっと自信がなくなってきたので、ドイツの競馬規約(2005年6月改訂版):B「生産」-V「サラブレッドの命名についての基準」を読んでみたのですが…、ないっすね(汗)
ネット上で調べてみたところ、競馬規約から引用(項目番号なし)として命名不可基準に「母の名の頭文字を継承しないもの」というのがあったりもするので、そのような規則が明文化されていた時期もあったのかもしれません。
実際的には1920年代くらいから内国産馬に対しこの方式は恐らく例外なく貫かれており、たとえ規約上の拘束はなくなったとしても、「マナー」という言葉以上の強い規範意識で継承されているのだと思います。
といいますか、ドイツに「マナー」なんてものがあるのかと考えて小一時間。
多分彼らの社会では「規則」>「規範」の次は「自由」かと。
6年半の滞在中、前半の3年半はケルン、後半3年はデュッセルドルフにいました。どちらにもG1を開催する競馬場があるのですが、開催数の多さと最初に通いつめた馴染み度で、個人的なホームグラウンドはケルン競馬場です。
「ドイツで一番のレース」となると、賞金額、栄誉の点でドイツダービーに勝るものはありません。完全に別格の扱いです。
もちろんバーデン大賞は古馬混合の国際レース(私は有馬よりJCだと思ってます)として長い伝統がありますし、実力評価ではこちらの方が上と言えるでしょう。しかし栄誉、盛り上がり度ではダービーは本当に特別です。
もっとも年度代表馬については殆どまともな選考ではないので、傾向も何もありません。詳しくは旧ブログで昔書いた以下の記事でも読んでいただければと。
http://blog.livedoor.jp/shiba_shuji/archives/50249052.html
といったところで、そろそろ2009年のドイツ競馬総括でも書かないといかんのですが、もう少し頭を整理する時間をください。
返信が遅れてすいませんでした!
親切な返信に感謝しておりました。
今日はリリエンタール号が残念な結果でしたね。と言いながら2代母まではイギリスでの繁殖過程があったようですが、ドイツ競走馬ということで(汗)
しかし写真を拝見させて頂きましたがプロ並ですね!データ管理なんかも大変でしょうね!(笑)
大変失礼な質問ですいませんが、どんな職業をされているんですか?さしつかえなければ教えて下さい。ドイツで日本人が出来る仕事なんて想像も出来ないもので...(汗笑)
ちなみに私は昭和46年生まれで、二十歳前後当時に趣味の範囲を超えて世界の海をあれこれ巡っていました。現在はシガナイ建築設計事務所で勤務しております。妻はフィリピンの国籍でして、仲良くやっております(笑)
1年前のドバイ。バブルが弾ける直前はドバイ市内の地下鉄の設計を現地で携わるオファーがあったのですが、妻・会社のしがらみで断念した経緯がありましたね...。
個人的には是非新競馬場を拝見したかったもんですね...。
バブルは弾けましたが、地下鉄工事は進行形ですので、うまくいっていれば新しいコースでのドバイでウォッカ・レッドデザイアあたりの勇姿を拝見できたはずでした。。。
とにかく今後とも宜しくお願いします。。。
どうもです。
> 今日はリリエンタール号が残念な結果でしたね。と言いながら2代母まではイギリスでの繁殖過程があったようですが、ドイツ競走馬ということで(汗)
いやいや途中で英国へ分岐していたとはいえ、このラインはレットゲン牧場の由緒ある牝系。4代母のAnna Paolaは独オークス馬ですし、ドイツに残っているラインからは今も重賞馬が輩出されています。
それに母Anna Mondaについては、独1000ギニー、オイローパ・マイレ、そしてイタリアG1のヴィットーリオ・ディ・カプアの勝利にそれぞれ立ち会ってましたので、それなりに思い入れはあります。もっとも主戦騎手のムンドリーが好きじゃなかったので、あまり心からは応援できなかったのですけど…。
> どんな職業をされているんですか?
もともと学生としてドイツに行き、そのまま現地の日系企業に就職してました。まあいろいろ根付くには(個人的に)面倒な部分が出てきてしまったので、日本へ帰ってきた次第です。
ただウェブ上ではこれ以上プライベートな事情は抜きにいたしましょう。
ドバイは一度は行ってみたいですね。今のところ全く金銭的余裕がありませんが…。
しかし今年は行こうという日本人は多いのでしょうね。ウォッカ、レッドデザイア、ブエナビスタの最強牝馬たちには是非実力を出し切ってもらいたいです。